わが母の記
絶妙な演技と細やかな演出
一昨年の日本映画1位は「悪人」、昨年は「八日目の蝉」だった。今年はこの作品になるのではないか。作家井上靖の家族と母を描いた自伝的小説の映画化で、作品のたたずまいに品格を感じさせる。
作家の伊上洪作(役所広司)は父が亡くなり、物忘れが多くなった母(樹木希林)の面倒を見ることになる。伊上は子どものころ、知人に預けられ、母に捨てられたという思いを引きずっていた。家族や姉妹とのかかわりの中で、母との長年の確執は解けていくが…。
樹木希林の絶妙な演技と役所広司の抑えた演技が素晴らしく、映画賞を席巻しそうだ。姉役のキムラ緑子の芸達者ぶりに涙を誘われ、妻役の赤間麻里子は映画デビュー作とは思えない、落ち着いた演技が見事である。
上流家庭のぜいたくさを描きながら、この家族の一員に加わりたいという居心地の良さを感じさせる。井上靖と同郷の原田眞人監督の細やかな演出がさえている。(2012年6月7日・笹原)