灼熱の魂
怒りの連鎖と混乱の根深さ
数年に一度、見終わって多くの事柄を考えさせられる映画に出会う。この映画もそうした作品の一つだ。
カナダで暮らす双子の姉弟ジャンヌとシモンの母親ナワルが永眠する。母の遺言は「所在が分からない自分たちの父と兄に手紙を渡してほしい」という内容だった。ジャンヌは中東の母の祖国へと旅立ち、そこで母の過酷な過去を知る。映画は宗教対立に翻弄(ほんろう)され続けた母の壮絶な運命を通して、中東で起こっている混乱の根深さについて考えさせる。
レバノン出身の劇作家ワジディ・ムアワッドの戯曲を「渦」のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が映画化した。監督はこの作品についてこう語っている。「われわれはどうすれば終わりのない暴力を生みだす怒りの連鎖を断ち切ることができるだろうか。どうしたら反目し合う人々の間に平和をもたらすことができるだろうか」。この作品はその一つの回答を示している。(2012年7月19日・酒井)