It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

苦役列車

青春映画として原作を再構築

西村賢太の芥川賞受賞作の映画化。「マイ・バック・ページ」の山下敦弘監督が果敢に映像化に挑んでいる。

1986年、中卒、19歳の北町貫多(森山未來)は日雇い労働で無目的に毎日を送っている。アパートの家賃は滞納し大家に転居を迫られていた。ある日、職場で新入りの専門学校生、日下部正二(高良健吾)と知り合う。孤独に読書にのめり込んで生きてきた貫多の暮らしが変わり始める。

原作は社会の底辺にうごめく若者の生きざまをリアルに描き出した。映画もストーリーは原作を踏襲しているが、登場人物が「前向き」で「夢」を持っているところに違いがある。

職場の同僚で歌手志望の男がカラオケで「襟裳岬」を歌う場面が印象深い。主人公が「書くこと」に生きる意味を見いだすラストも感動的だ。見苦しいが「夢」を持って生きる若者のまっとうな青春映画として再構築した監督の手腕が光る秀作である。(2012年9月6日・小野)

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