ザ・マスター

深層心理の闇　鋭く描き出す

独創的な脚本と映像で定評のあるポール・トーマス・アンダーソン監督が「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」から５年を経て撮った作品。２人の男が抱える深層心理の闇を鋭くえぐり出す。

第２次世界大戦後、アルコール依存症となった元海軍兵士フレディ（ホアキン・フェニックス）は新興宗教の教祖ドッド（フィリップ・シーモア・ホフマン）と出会う。救いを求めるフレディは次第に"マスター"ドッドに心酔。お互いの持つ得体の知れない虚無感が共鳴し合い、２人の間には友情にも似た絆が生まれるが、やがて微妙な亀裂が生じ、その関係は不穏なものになっていく。

「マグノリア」（1999年）のような〝カエルの雨〟こそ降らないが、監督独特の表現が随所にあり、観客はその世界観を堪能するだろう。フェニックスとホフマン、教祖の妻役エイミー・アダムスはそれぞれアカデミー賞主演男優、助演男優、助演女優賞にノミネートされた。（2013年5月9日・杉尾久）