言の葉の庭

雨音で広がる叙情的な世界

雨をこんなに美しくリアルに描いたアニメがあっただろうか。水面で弾み、木々の緑を揺らめかせ、優しく激しく降り注ぐ表情豊かな雨。実写も及ばない透明感に目を奪われる。

靴職人を目指すタカオは、雨降る午前は学校をサボり公園で靴の絵を描いている。そこで憂いをまとった年上の女性ユキノと出会う。時を重ね静かに引かれ合う２人。小鳥のさえずり、雨音がそれを包み込み、叙情的な世界が広がる。将来に自信が持てず焦りを感じている15歳と、心に傷を負い、歩くことを忘れかけている27歳。それぞれの抱える現実を細部にこだわった繊細さでつづる。劇中で引用される万葉集の２首は引かれ合う男女の思いを映し出し物語に文学的な彩りを添える。

上映時間46分の中で選び抜かれた言葉と静寂が胸に染みる。「秒速５センチメートル」で、"残照の中で生きていくこと"の切なさを情感たっぷりに描いた新海誠監督の真骨頂の作品だ。（2013年8月15日・杉尾久）