そして父になる

夫婦の苦悩を端正な描写で

カンヌ映画祭で審査員賞を受賞した話題作。監督は「誰も知らない」の是枝裕和である。

大手建設会社に勤め、高級マンションで暮らし勝ち組の人生を歩んで　きた野々宮良多（福山雅治）にある日、衝撃がもたらされる。妻のみどり（尾野真千子）と６年間愛してきた息子は病院で取り違えられた他人の子供だった。相手の家族は電気店を営む斎木雄大（リリー・フランキー）と妻ゆかり（真木よう子）で、２つの家族はそれぞれに育てた子供を手放すことに苦しんでいく。

２家族の夫婦に扮する４人の演技のアンサンブルが素晴らしい。お腹を痛めて産んだ子を取り違えられていた事実に気づかなかった自分を責める尾野と真木が、母親同士シンパシーを感じ合う場面も心を打つ。

大事なのは血のつながりか、それまで育んできた時間か。家族の絆とは何なのか、端正な描写で見る者に深く考えさせる。本年屈指の秀作である。（2013年10月10日・小野）