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シネマ1987online

バケモノの子

孤独の闇払うアニメの傑作

「おおかみこどもの雨と雪」の細田守監督が原作と脚本も手掛けたアニメの新作である。

母子家庭で母に先立たれ、一人ぼっちになった少年(宮崎あおい)は渋谷の街でバケモノの熊徹(役所広司)と出会う。少年は警官の補導から逃れ、建物と建物の隙間へ逃げ込むとバケモノの異界にたどり着く。そこで少年は九太という名前を授けられ、無手勝流だが武術に強い熊徹の弟子になる。だが短気でがさつな熊徹と衝突を繰り返していく。

熊徹と九太が孤独な者同士で父子のように心を通わせていくところがいい。少年の成長物語としてもよく練られている。メルヴィルの「白鯨」を心棒に置き、青年となった九太(染谷将太)が自分の合わせ鏡として、同じように孤独で心に深い闇を抱える青年の一郎彦と対峙(たいじ)する場面も印象に残る。現代社会で自らを落後したと思い患い、心に闇を抱えて生きている者たちに活力を与える傑作だ。(2015年7月16日・小野)

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