くちびるに歌を

名曲モチーフ　深みある設定

中田永一の同名小説を原作に、アンジェラ・アキの名曲「手紙〜拝啓十五の君へ〜」をモチーフとしてつくられた音楽映画である。

長崎県の五島列島へ産休の音楽教師の代理としてやってきた柏木ユリ（新垣結衣）。彼女は天才ピアニストとうわさされていた。合唱部の顧問となった柏木は全国コンクール出場を目指す生徒たちに、課題曲の練習のため15年後の自分に手紙を書くという宿題を出す。そこには生徒たちの誰にも言えない悩みと秘密がつづられていた。それはある悲しい出来事からピアノを弾けなくなった柏木の心を動かしていく。

柏木がピアノを弾けなくなった興味で引きつける。男子生徒の１人に自閉症の兄がいる設定にしたのも光る。「業」を背負って生きていく者の決意を感じさせ、作品に深みを与えている。山場の会場での歌唱シーンもいい。監督は「ソラニン」の三木孝浩。見たあと心に薫風が吹くような佳作である。（2015年3月19日・小野）