この国の空
戦時下の日常 接近する男女
芥川賞作家・高井有一による谷崎潤一郎賞受賞の同名小説を原作に、「Wの悲劇」「さよなら歌舞伎町」などの名脚本家・荒井晴彦が18年ぶりに監督した映画である。
昭和20年、終戦間近の東京・杉並に19歳の里子(二階堂ふみ)は母(工藤夕貴)と叔母(富田靖子)の3人で住んでいる。隣に住む銀行員の市毛(長谷川博己)は徴兵検査で丙種合格となり、家族を疎開させ1人暮らし。身の回りの世話をしているうちに、里子は徐々に市毛に引かれていく。
荒井監督は銃後の守りをしている女性たちと兵役を逃れた男性との関係性から、庶民の暮らしを繊細にリアルに切り取って描くことで、戦後70年を総括した官能的な映画を作りあげた。特筆すべきは、当時を再現した川上皓市の見事な撮影と宮崎出身の作曲家でミュージシャンの下田逸郎が担当した音楽。戦時下の悲惨な雰囲気を表現して作品を盛り上げている。新たな戦争映画の傑作。(2015年9月24日・笹原)