野火
過酷な戦場をリアルに描写
大岡昇平の名作戦争文学の再映画化。「鉄男」の塚本晋也監督の新作である。
第二次世界大戦の末期、敗色濃厚の日本軍はフィリピンのレイテ島で飢餓にあえいでいた。田村一等兵(塚本晋也)は結核で野戦病院に行かされるが、小さい芋しか持ち合わせていないため追い出され、部隊への復帰も拒まれる。激しい戦闘で地獄のようなジャングルを行く田村は伍長(中村達也)と遭遇し、さらなる地獄を体験する。
白黒の市川崑監督版とは対照的に、病院の建物が空爆されて上がる紅蓮(ぐれん)の炎や日本兵が鮮血に染まる赤、日中のジャングルの緑に上空の青など色彩を強調しつつも正攻法で描く。衝撃的なカニバリズム以上に過酷な戦場をリアルに描くことに力点を置き、悪夢が現実を侵犯していく既作の延長線上に作品の世界を築いて個性を生かしている。87分と上映時間が短いのもこの監督らしい。タイトな反戦映画の秀作だ。(2015年8月6日・小野)