It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

キャロル

胸が熱く高鳴る秀作

買い物客でにぎわうクリスマスの百貨店。おもちゃ売り場のアルバイト、テレーズ(ルーニー・マーラ)は喧騒の中、1人の美しい女性にくぎ付けになる。彼女は上流階級婦人のキャロル(ケイト・ブランシェット)。彼女はふとテレーズの瞳を意識する。2人にとって運命の出会いの瞬間だった。

原作は「太陽がいっぱい」で知られるパトリシア・ハイスミスが1952年に書いた小説だが、当時、女性同士の恋愛を描くことは著名な作家にはリスキーだとして別名で出版された。60年以上の時を経て「エデンより彼方に」のトッド・ヘインズ監督が映画化。女性の社会的地位が確立されようとしていた50年代に1人の人間として考え、行動し、自立へと向かう女性たちの姿を印象的に描いた。

何不自由ない暮らしの中、満たされない自己を抱えていたキャロルと若さゆえに精神的な自立ができないテレーズ。2人が恋愛を通して見せる熟慮と短慮、寛容と狭量という揺らぎは知性と感情を豊かにし、人としての成熟をもたらす。その一歩を踏み出す出会いは決して特別なものではない。2人の「はじまり」の予兆に、私たちにも訪れるであろう多くの出会いに熱く胸が高鳴る秀作だ。(2016年4月28日・手塚)

TOP