海よりもまだ深く
家族の日常 温かく描写
自称作家の良多(阿部寛)は探偵事務所で働いている。お金が入るとギャンブルに使い、元妻の響子(真木よう子)に息子の養育費も払えず、愛想を尽かされている。団地に住む母親淑子(樹木希林)は彼のことをいつも気にかけている。台風の日、たまたま淑子の部屋に来ていた良多たち元家族3人は図らずも一晩一緒に過ごすことになる。
「海街diary」の是枝裕和監督の最新作。何かが欠けている、でも、どこにでもある家族の日常を描いてきた是枝監督らしい温かな印象が残る物語だ。中年のダメ男を演じる阿部寛、団地で1人暮らしだが、それなりに生活を楽しみ、子どもに愛情を注いでいる母親の樹木希林がしみじみと良い味を出している。
思い描いた夢をかなえた人がどれだけいるだろう。軌道修正しながら夢へ近い方へと進む人、まるで違うところで新しい夢を見いだす人、幸せはさまざま。どんな人生でも素晴らしい。その人生をそっと見守ってくれる肉親がいれば、なお。ダメな息子を温かく受け入れてくれる母親、ダメな父親でも父と慕う子ども、良多の夢はかなわなくても彼は既に幸せな人生を歩んでいる。私たちの何げないこの日常に、ふと感謝したくなる作品だ。(2016年5月26日・手塚)