さざなみ
揺らぐ老夫婦の日常
イギリスの片田舎で平穏に暮らしている老夫婦に1通の手紙が届く。内容は50年前に夫が愛した女性の遺体が発見されたというものだった。夫のジェフは動揺を隠しきれず、結婚前に愛した女性のことを妻のケイトに打ち明ける。「もし彼女がスイスの山で遭難しなかったら彼女と結婚した?」。ケイトはジェフに聞く。夫が「そのつもりだった」と答えたことから、2人の穏やかな老後にさざ波が立ち始める。
手紙が届いて6日後、夫婦の結婚45周年を祝うパーティーが催された。多くの友人たちの前でジェフが妻へ愛と感謝の気持ちを述べる。祝福されながら夫とダンスを踊る彼女の表情は硬い。ダンスの曲は夫婦の若い頃に流行(はや)ったであろう懐かしい「煙が目にしみる」だった。そのまま幸せなラストへと入ると思わせるが…。
主演のシャーロット・ランプリングは50年前に死んだ女に激しい嫉妬を覚える妻を演じて、今年のアカデミー主演女優賞にノミネートされた。冷酷なまでの美しさで画面を引き締める。気品あふれる極上の演技には恐れ入るばかりだ。夫のジェフにはトム・コートネイ。監督はアンドリュー・ヘイ。熟年夫婦必見かもしれない。(2016年6月2日・林田)