教授のおかしな妄想殺人

哲学科の大学教授エイブ（ホアキン・フェニックス）は若い頃に妻の裏切りや友人の理不尽な死を経験したことから、どんなにポジティブに生きても「人生は無意味」という思いにとりつかれている。彼に思いを寄せる利発で美しい教え子ジル（エマ・ストーン）の存在も、無気力な彼を変えることができない。

ある日、汚職まみれの悪徳判事の存在を知ったエイブは判事を殺すことを思いつく。完全犯罪を喜々として企てるエイブ。タブーを犯すことで得られる高揚感が彼を支配する。ジルはそんな殺人計画など知る由もなく、ますます彼に引かれていく。

人生の意味を見失っていたエイブはゆがんだ正義感を正当化することで、自分の存在に意義を持たせ、再び生きる力を得た。しかし、その代償に皮肉なしっぺ返しが彼を襲うことになる。先の読めない展開に最後まで目が離せない。

監督は「アニー・ホール」「ミッドナイト・イン・パリ」などのウディ・アレン。重い話をブラックに滑稽に、おしゃれに描いて見せる手腕がさえている。スリリングな場面でテンポ良くビートを利かせた音楽が耳をくすぐる。アメリカ東部の美しい風景も楽しめる作品だ。（2016年8月25日・杉尾）