葛城事件
理想の家庭 壮絶な崩壊
葛城清(三浦友和)は父親から受け継いだ金物屋を切り盛りしながら、東京の郊外にマイホームを手に入れ、妻の伸子(南果歩)とともに長男・保(新井浩文)と次男・稔(若葉竜也)を育て上げた。理想の家族と生活を築いたと思っていたが、従順に育ってきた自慢の長男は会社からリストラされる。こらえ性がなくアルバイトも長続きしない次男は家にほとんど閉じこもるようになった。清に言われるがままで、耐え忍ぶことしかできなかった伸子はついに不満を爆発させ、稔を連れて家出する。ところが、稔は8人を殺傷する無差別殺人事件を起こして死刑囚になってしまう。
すさまじく大きなインパクトのあるホームドラマ。比較的きれいな役しか演じてこなかった三浦が渾身の汚れ役でこの映画を成功へと導く。監督はデビュー作「その夜の侍」で高い評価を得た赤堀雅秋。築き上げた理想の家庭の歯車が狂い始め、壮絶な崩壊の道をたどっていくさまを人間の本質に根ざす滑稽さ、残酷さ、狂気をあぶり出しながら、丁寧にそして鮮烈に描き出す。
映画の中でコンビニ弁当をほおばっている主人公たちの姿が実に印象的だ。今年の邦画の中でも強い印象を与える作品である。(2016年9月8日・酒井)