ハドソン川の奇跡
英雄一転 苦悩する機長
2009年1月15日、乗員乗客155人を乗せた旅客機がニューヨーク・ラガーディア空港離陸から2分後、鳥の群れに激突し、エンジンが停止する。推力を失った機体は奇跡的にハドソン川への着水に成功、全員が無事に救助される。
絶体絶命の3分半、冷静かつ的確な判断で乗客の命を救った機長のサリーは一躍英雄となる。しかし、管制塔の指示に従わず、無謀な決断により乗客を死の危険にさらしたとの疑惑が浮上し、国家運輸安全委員会(NTSB)の執拗な追及を受ける。
緊急着水の決断が確かに正しかったと公聴会で証明されるまで手の震えや不眠に苦しみ、苦悩する機長をトム・ハンクスが絶妙に演じる。
監督は「グラン・トリノ」「アメリカン・スナイパー」など孤高のヒーローや、マイノリティーと弱者に寄り添う視点で作品を撮り続けるクリント・イーストウッド。
事故直後の緊迫したシーンに始まり、エピソードを忠実に挟んでいく構成は見事。イーストウッド監督は86歳とは思えない職人技の演出を見せる。音楽も素晴らしく、臨場感豊かに全体を包む。これぞ映画と言える96分。(2016年9月29日・杉尾久)