永い言い訳
演技と人間描写に魅了
名前の読みが高名な元プロ野球選手と同じで小さい頃からやゆされてきた衣笠幸夫(本木雅弘)。今は津村啓というペンネームで人気作家として知られているが、不倫相手と密会中、妻が不慮の事故に遭い、親友とともに亡くなってしまう。世間的には悲劇の人物を装う日々を送る幸夫はある日、妻の親友の遺族であるトラック運転手の陽一(竹原ピストル)とその子供たちに出会う。ふとした思いつきで子供たちの世話を買って出たことから、幸夫は他人のために生きる幸福を感じるが、妻の遺品の携帯電話に未送信のメールを発見し、衝撃を受ける。
西川美和監督が直木賞候補にもなった自著の小説を映画化した。本作に協力している是枝裕和監督の映画「そして父になる」と人物配置が似ているが、西川監督らしいアプローチによる人間描写で「ゆれる」「ディア・ドクター」に比肩する作品に仕上げた。
幼時からさまざまな劣等感を持ったナルシシストで、愛のない結婚生活を送りながら自らを正視できない主人公を本木雅弘が名演。本木は「シコふんじゃった。」の頃も良かったが、今がピークにあるのではないか。本木と西川監督の見事な二人三脚に魅了される秀作だ。(2016年12月1日・小野公宇一)