It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

だれかの木琴

加速する一方的な思い

平凡な専業主婦の小夜子(常盤貴子)。郊外の一軒家に越してきて間もない彼女は、初めて訪れた美容院で美容師の山田海斗(池松壮亮)に髪を切ってもらう。海斗からその日のうちにお礼のメールが届いた。小夜子は返信を出すが、心の内にさざ波が立ち始める。返信に返信を重ねるうち、返事が絶えると再び店に行き海斗を指名、それにも飽き足らず海斗の住所を探り当て呼び鈴を押してしまう。小夜子の思いは加速するばかりで夫と娘、海斗の恋人まで巻き込んでいく。

直木賞作家・井上荒野の原作を「サード」「絵の中のぼくの村」の名匠・東陽一が映画化。東監督は82歳だが、演出が全く年を取っていない。むしろ若々しく感じさせるのに驚きを禁じ得ない。

常盤貴子の演技がすごい。何の変哲もなさそうな3人家族の生活の裏で孤独を抱え込み、池松壮亮への狂愛が水流を増していく姿には恐怖を覚える。受ける池松の演技も見事。全体としてホラー映画に近い感じで迫ってくるが、ネットを介在させた対人関係が今の時代にいっそうリアルさを増す。誰が「木琴」をかき鳴らすのか。小夜子は海斗の後も、別の男に触手を伸ばすのか。今年の日本映画の収穫の1本だ。(2016年12月22日・小野)

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