The NET 網に囚われた男
善良な庶民を襲う悲劇
北朝鮮で妻子と穏やかに暮らす漁師ナム・チョル(リュ・スンボム)。ある日、網が舟のエンジンに絡まり、韓国側へ流されてしまう。韓国警察に身柄を拘束されたチョルはスパイ容疑で激しい拷問を受け、亡命を強いられる。だが妻子のもとに戻りたい一心で耐え続け、何とか北へ帰るが、チョルにはさらなる悲劇が待ち受けていた。
「うつせみ」「嘆きのピエタ」のキム・ギドク監督の最新作。南北朝鮮分断の悲劇をコメディータッチで描いたギドク製作の「レッド・ファミリー」を真面目に正攻法で作ったような作品だ。
拘束されたチョルはソウル市内に連行されるが、きらびやかな街の風景を北朝鮮への忠誠から目にすまいと、まぶたを閉じるシーンに胸を打たれる。そこまでして北へ帰っても韓国で受けた以上につらい仕打ちが降りかかるのが痛ましい。
「南北朝鮮国境で舟が流されたら」という仮定で描いた作品だが、実際にそういう事故があったら本当に起きそうな悲劇だけに恐ろしい。国家間の争いで真っ先に犠牲となるのは善良な庶民である。北朝鮮の核開発問題で朝鮮半島情勢が危うい今、一人でも多くの方に見て、そのことを感じてもらいたい。(2017年5月18日・小野)