この世界の片隅に
生きていく実感美しく
日本に戦争の足音が近づいていた頃、広島から呉へと嫁いできた18歳のすずは、家族や町の人々と穏やかに暮らしていた。日に日に戦局は厳しくなり、軍港のある呉はひどい空襲に遭う。人々はそれでも日々のささやかな出来事に心を寄せ、日常を送っていた。そして8月、広島に原爆が落ちた。
こうの史代の同名漫画をアニメ化した作品。製作資金の一部を一般市民に募るクラウドファンディングで作られ、口コミによって高評価が広まった。女優の能年玲奈が「のん」と改名して初の声優を務めている。監督は「マイマイ新子と千年の魔法」の片渕須直。戦時中を描いた「今までにない」作品と言える。
昭和18年。戦争の中、人々は物資がないなりに工夫しながら過ごしていた。戦いへと突き進んでいく時代でも、笑顔があり、愛があった。突然、大切なものを失ったすずは怒り、嘆き、悲しむ。その苦しみを受け入れた時、ほほ笑み、語らい、優しさが返る。
でも失ったものを忘れることはない。そして少し違った自分になり、いつもの日常へと戻っていく。人が「生きていく」ということをしみじみと感じさせる美しい作品だ。(2017年1月12日・手塚)