わたしは、ダニエル・ブレイク
尊厳を失わない主人公
「麦の穂をゆらす風」(2006年)に続き、昨年のカンヌ国際映画祭で2度目の最高賞パルムドールを受賞した社会派ケン・ローチ監督作品。
実直で勤勉な大工職人ダニエル(デイヴ・ジョーンズ)は、心臓発作を起こし59歳で職を失う。雇用支援手当を不条理な審査結果で止められ、求職者手当を申請するが、融通の利かない複雑な手続きが彼をはばむ。堂々巡りで進まぬ理不尽な対応にいら立ちと怒りが抑えられない。窮地に立つ彼だが、職業安定所で制裁措置の宣告を受け途方に暮れるシングルマザーのケイティ(ヘンリー・スクワイアーズ)を助ける。つらい状況で互いを思いやる優しさ。だが次第に貧困はふたりを追い詰める。
安易に感動して涙するものではない。けれど、あふれる感情は抑えられない。舞台は英国だが、背景には普遍的な社会問題がある。「尊厳を失ったら終わりだ」と言い放ち、彼が取った行動に思わず拍手。どんな状況下でも人が忘れてはいけない大切な事に気づかされる。労働者階級や社会的弱者に寄り添い、厳しい現実を必死に生きようともがき戦う人々の姿を描いてきたローチ監督が80歳にして引退を撤回しても伝えたかった物語がここにある。(2017年6月8日・杉尾久)