It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

彼らが本気で編むときは、

LGBTと家族繊細に

母親に育児放棄された小学5年生のトモ(柿原りんか)。一人ぼっちになり、叔父のマキオ(桐谷健太)のもとを訪れる。そこにはマキオと暮らす編み物が得意なトランスジェンダーのリンコ(生田斗真)がいた。愛情を注いでくれるリンコに戸惑いながらも、トモは叔父の家で3人のおかしな共同生活を始める。

「かもめ食堂」の荻上直子監督の5年ぶりの新作で、荻上監督自身による脚本が素晴らしい。性的少数者(LGBT)の悩みを繊細に描き出している。男でありながら男の子が好きなトモの同級生のカイ(込江海翔)のエピソードも心に残る。LGBTの問題を入れ込んだ家族のありようを描いたドラマとしても印象深い。人は誰かからの健全な愛情があれば強く生きていけるということを映画は教えてくれる。

トモが終盤に取る選択に注目したい。切ろうにも切れない母子の絆と、他者の愛に育まれたトモの成長をそこに感じ取れる。リンコから渡された包みの中身を抱きしめる「愛」にあふれたラストはしみじみと胸を打つ。これほどの「愛」の映画は近年まれだろう。荻上監督がすごいものを見せてくれた。キャリア最高作であると同時に、本年屈指の傑作だ。(2017年6月29日・小野)

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