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シネマ1987online

マンチェスター・バイ・ザ・シー

慈愛にあふれた終幕

 第89回米アカデミー賞でケイシー・アフレックが主演男優賞を、監督兼任のケネス・ロナーガンが脚本賞を受賞した話題作。

 ボストン近郊で便利屋として働くリー(ケイシー・アフレック)は兄の死を契機に故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーに帰ってくる。リーを戸惑わせたのは兄の遺言で、16歳のおいパトリック(ルーカス・ヘッジズ)の後見人に指名されたことだった。やむなく役目を引き受けるうち、過去に彼の身に起こった悲劇と向き合わざるを得なくなる。リーは父を亡くしたおいとともに、この町で新たな一歩を踏み出せるのか。

 舞台となるのは米マサチューセッツ州の方の「マンチェスター」で、町をとらえた撮影が素晴らしい。町の空気感まで感じさせ、孤独と悲しみを抱えるリーの心象風景ともなっている。回想シーンが随所にあり、徐々にリーの過去が明かされていく語り口もうまい。

 エンディングには「やったらやれる」のアメリカ的精神などみじんもない。リーは精神的に「壁を乗り越え」られないままとなる。だが彼がボストンの家に兄の見立てた椅子を置く一室を設けようとするところに一筋の光明を見る。慈愛にあふれた終幕に心が温まる秀作だ。(2017年9月21日・小野)

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