泥の河
3人の子役強烈な印象
昭和30年代初めの大阪。川のそばの下町に住む人々は、それぞれが戦争への思いを残しながら一生懸命に暮らしていた。川べりの小さな食堂の一人息子、信雄は、小舟で暮らす喜一と仲良くなる。喜一の姉、銀子と3人で遊ぶようになった信雄は、祭りの夜に父(田村高廣)から「夜は行くな」と言われていた小舟に行き、彼らの母(加賀まりこ)の仕事を見てしまう。
原作は宮本輝の第13回太宰治賞受賞作。「死の棘」の小栗康平の初監督作品で自主製作された。3日間だけの自主上映から始まった作品だったが、1981年の国内主要映画賞で高評価を受け、翌年のアカデミー外国語映画賞にもノミネートされた。ベテラン俳優たちはもちろん、主要な役を演じる3人の子役が強烈な印象を残す。
終戦から10年ほどがたった時代、戦争の影を追い払うかのように生き急ぎ、命を落とす人も多かった。店のお客や知り合いの死を間近に見てきた信雄だったが、喜一と銀子に出会い、彼らの「生きる」姿に今までにない衝撃を受ける。去っていく小舟を追いかける信雄の心の動きが切ない。子どもの瞳に映る大人たち、そして出会いと別れは、私たちの心をも大きく揺り動かす。(2017年9月28日・手塚)