彼女がその名を知らない鳥たち
強烈な感動呼ぶ逸品
徹底したミステリータッチで話が進むわけではないが、後半思わぬ真相解明の展開があり、強烈に心に残る作品がある。「凶悪」の白石和彌監督による本作はそんな映画である。
働きもせず家事もせず、購入商品のクレーマーと化すなど嫌な性格の女・十和子(蒼井優)。下品で不潔な年上の男・陣治(阿部サダヲ)と暮らしているが、8年前に別れた黒崎(竹野内豊)のことが忘れられずにいる。ある日、十和子はデパートでの時計修理のクレームから、売り場担当者の水島(松坂桃李)と出会う。黒崎の面影がある水島と情事を重ねるうち、十和子は警察から黒崎が行方不明であることを知らされる。十和子のためなら何でもしそうな陣治が執拗(しつよう)につけ回しているのに気付いた彼女は、黒崎の失踪に陣治が関わっている疑いを抱く。陣治は黒崎を殺したのか。
沼田まほかるの同名小説の映画化。序盤は嫌な男女の関係を見せられる作品と思えるが、阿部が手足を十字架のようにして落下していく場面から激変する。これは何とすごい愛の映画だったことか。蒼井、阿部、松坂ら俳優陣の演技のアンサンブルも見事。見終えてぼうぜんとするほどの感動を呼ぶ逸品である。(2018年01月04日・小野)