麦秋
長女の結婚と喪失感
鎌倉に住む間宮家は両親、長男・康一(笠智衆)夫婦とその息子2人、それに長女・紀子(原節子)の3世代7人でにぎやかに暮らしている。両親や兄夫婦の気掛かりは紀子に結婚の気配がないこと。でも彼女は、どこ吹く風といった風情で仕事にプライベートにと毎日を楽しんでいる。そんな紀子に会社の上司から縁談が持ち込まれる。
1951年公開の小津安二郎監督作品。紀子の結婚話を軸に、人が家族の中で成長していく姿を描いている。紀子はちょっとしたきっかけで幼なじみとの結婚を決める。それを機に両親は田舎にある実家に戻り、鎌倉には長男家族だけが残る。そこにいることが当たり前だと思っていた人がいなくなる寂しさ、家族だからこその大きな喪失感が、さまざまなシーンから伝わってくる。
新しい生活が始まった田舎の家で、たわわに実った麦の畑を見つめながら「今までほんとうに幸せでしたわ」と母親がつぶやき、父親が「ああ」と返事をする。季節はめぐる。一つ屋根の下で暮らし、家族はそれぞれに成熟していく。ありふれた日常、過ぎ去った時、そしてこれから迎える時も、何にも代えがたく素晴らしい。(2018年03月08日・手塚)