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シネマ1987online

ベロニカとの記憶

受け入れがたい真実

平穏な引退生活を送る年老いたトニーに弁護士から遺品受取人の指名通知が届く。それは学生時代に自殺した親友の日記だった。所持していたのは、40年前にトニーを振ったベロニカの亡くなった母親。時を経て再会したベロニカは日記をトニーに手渡すことをかたくなに拒むのだった。それが青春時代のベロニカとの甘酸っぱい初恋の記憶を根底から打ち砕くことにつながっていく。

過去に起こった事柄を自分の希望的主観で捉え、淡い記憶として刷り込んでいたものが、不意に割り込んできた別角度からの視点にさらされた時、受け入れがたい真実が浮かび上がる。それは穏やかに人生のたそがれを迎えていたトニーにとって残酷な真実だった。

女性心理が分からない愚鈍な男だが、どこか憎めない老人トニーを「アイリス」のジム・ブロードベントが、年老いたベロニカを「さざなみ」のシャーロット・ランプリングがクールに謎めいて好演している。

インド映画「めぐり逢わせのお弁当」のリテーシュ・バトラ監督は物語をトニーの視点で描き、細部は明らかにしない。余白は観客の想像力に委ねた。原作は英国ブッカー賞のジュリアン・バーンズ著「終わりの感覚」。(2018年03月22日・杉尾久)

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