判決、ふたつの希望
民族や国家見つめる
故郷を離れ、レバノンの首都ベイルートで出産を間近にした妻と2人で小さな自動車修理工場を経営するトニー。パレスチナ難民で不法就労ではあるが、建設現場の監督を任されているヤーセル。始まりはトニーの家のベランダに配水管を設置した工事についての謝罪についてだった。謝罪のやりとりはやがて大きな問題にまで広がり、レバノン国民やパレスチナ難民を巻き込んだ裁判闘争に及ぶことになる。
裁判が進む中で次第に明らかになるトニーとヤーセルの家の事情とその過去など全てが、民族や国家の歴史と深く関わってきたことが明らかになっていく。
謝罪だけを望むトニーと、民族への侮辱だけは許せないヤーセル。2人の思いとは違う方向へと裁判は進んでいく。多くの人間の注目を集めながら、判決が出される。
レバノン出身のジアド・ドゥエイリ監督が実体験をもとに製作した作品で、民族や国家の在り方について深く考えさせられる。
第74回ベネチア国際映画祭で最優秀男優賞を受賞したヤーセル役のカメル・エル・バシャも、トニー役のアデル・カラムも共に頑固ではあるが誠実な人物を味わい深く演じ、感動的な作品になっている。(2018年10月11日・金川)