斬、
心に残る主人公の慟哭
江戸時代末期、浪人の都築杢之進(池松壮亮)は江戸近郊の農村に身を寄せ、市助(前田隆成)やその姉ゆう(蒼井優)の家の農作業を手伝いながら、いつか江戸へ出て幕府のために働こうと考えていた。杢之進とゆうはお互いに好意を持ちながらもそれを伝えることはない。ゆうは杢之進に剣のけいこをつけてもらう市助のことや江戸に行く日が迫った杢之進のことが気になっていた。
ある日、村に幕府のために働く人材を探しに澤村(塚本晋也)がやってくる。剣の達人の澤村は杢之進の腕を見抜き、一緒に江戸へ行き幕府のために働こうと誘う。同じ頃、村に無頼者たちがやってきて、村人の不安を駆り立てる。そして澤村と無頼者たちの争いが杢之進や市助、ゆうの運命を変えていく。
「野火」「鉄男」の塚本晋也が製作・監督・脚本・撮影・編集し、重要な役である澤村まで演じている。池松壮亮や蒼井優の熱演もあり、20年以上温めていた企画で監督初の時代劇にもかかわらず、見応えのある作品となっている。
80分という短い上映時間だが、「人の斬り方を教えてください」という杢之進の慟哭が心に残る。塚本監督らしい示唆に富んだ時代劇の佳作だ。(2018年11月29日・金川)