象は静かに座っている

4時間弱　至福の作品

同級生の不良に重傷を負わせ追われる男子高校生、教師との関係をネットで拡散された女子高生、親友の妻と寝て親友が目の前で自殺した若いヤクザ、家族から老人ホームに入ることを迫られている老人。中国の地方の町で絶望と向かい合いながら生きる４人が心の中で希望として抱いているのは、遠く離れた満州里の動物園で１日中ずっと静かに座っていると聞いたゾウの存在だった。

夢の中のような薄暮の世界で映画は進行する。映画を見るとは、映画館の暗闇に身を沈め、登場人物に重ねて死と再生を疑似体験し、魂を浄化させ、明日を生きる活力を得るための行為だと聞いたことがある。そうだとすれば、この映画は４時間弱の鑑賞後、そうした至福がもたらされる最良の作品である。監督はこの１本のみを残して２９歳の若さで自ら命を絶ったフー・ボー。必見の映画だ。（2020年01月09日・後藤）