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シネマ1987online

スパイの妻

古典劇のような風格

太平洋戦争直前、昭和15年の神戸、貿易会社を経営する優作とその妻聡子は幸福で満ち足りた生活を送っていた。しかし優作は出張先の満州で日本軍の恐ろしい所業を目撃、強い正義感から、この国家機密を国際政治の場で告発しようとする。聡子は夫の企てを知り、崩れ去る日常に激しく動揺しながらも、祖国に背いて夫を愛し、スパイの妻になることを選択する。

夫婦役の高橋一生と蒼井優が硬質で端正なセリフ回しと高い演技力によって、その時代を見事に表現。映画の構図はシンプルで力強く、主要登場人物の数を絞り、造形を彫り込んだことで古典劇のような風格と深みが出ている。ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した黒沢清監督の演出は映画愛に満ちあふれ、挿入されるモノクロ映像が劇的な効果を上げる。夫とは、妻とは、男とは、女とは。見終わった後、語り合いたくなる映画だ。(2020年11月19日・後藤)

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