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シネマ1987online

茜色に焼かれる

尾野真千子の演技圧巻

「舟を編む」の石井裕也監督の最新作。理不尽な交通事故で夫を亡くした田中良子(尾野真千子)。7年後、良子は中学生になった息子の順平(和田庵)と苦しい暮らしを送り、息子はいじめに遭う。

尾野真千子の入魂の演技が圧巻。高齢者の運転ミスによる事故、経済格差、リストラ、介護、いじめに新型コロナなど今の日本の諸問題を扱いながら総花的にならず、見る者に訴えかける。

「人生は何度でもやり直せる」と良子の高校時代の同級生の男が言う。こう軽く言えるのは軽い男と思わされる。現実にやり直してうまくいくには今の日本では、ほとんど超人的な膂力を要するだろう。本作の母子の姿から、それがいかに難しいかを痛感させられる。だが母子は茜色の空の下、前に進んでいく。生への望みを捨てない姿に激しく心を揺さぶられる。珠玉の一作だ。(2021年7月8日・小野)

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