すばらしき世界
再スタート阻む社会
「ゆれる」の西川美和監督の新作。佐木隆三の「身分帳」を原案にして、3年がかりで脚本を執筆して挑んだ。
旭川刑務所から13年振りに出所した三上(役所広司)は弁護士に身元を引き受けてもらい上京する。テレビマンの津乃田(仲野太賀)とプロデューサーの吉澤(長澤まさみ)が三上の社会復帰と、生き別れた母に再会する番組の企画で取材を始める。三上は人々の助けで生活保護を受けながら一人暮らしを始め、人生の再スタートを目指す。
短気でキレると、手がつけられないが、曲がったことを見過ごせない主人公が憎めない。役所が名演し、介護施設でのいじめを目撃しての言動がやるせない。真っ当に生きようとしても阻んでくる社会と、一人の男の生きづらさが迫る。最後に出る映画のタイトルに、観客一人一人が人間を、社会の在り方を考えさせられる秀作である。(2021年2月25日・小野)