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シネマ1987online

窓辺にて

妻の不倫に怒れない夫

「愛がなんだ」の今泉力哉監督の作品で、今年の東京国際映画祭観客賞を受賞した。

フリーライターの市川茂巳(稲垣吾郎)は編集者の妻・紗衣(中村ゆり)が担当している作家と不倫をしているのに気づいていたが、怒りが起きない自分にショックを受けていた。文学賞の取材で出会った高校生作家・久保留亜(玉城ティナ)の受賞作に引かれた市川は作品にモデルがいれば会いたいと伝える。留亜や引き合わせられた人たちとの出会いから市川は妻と向き合うことになる。

稲垣は「ばるぼら」に続き文筆業の主人公を好演。自然で粒の立ったセリフのやり取りが素晴らしい。今泉監督のオリジナル脚本はエリック・ロメールや好調期の森田芳光にも比肩し得る。開巻と終幕の喫茶店での窓辺の光の温かみもいい。恋愛映画では現在、今泉監督の右に出る者はないと思わせる秀作だ。(2022年11月10日・小野公宇一)

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