It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

私の中のあなた

自分の両親を訴えたアナが家庭裁判所のデ・サルヴォ判事(ジョーン・キューザック)にその理由を説明しながら、思わず涙を流す。「泣いたりなんかして、私バカみたい」「バカは毎日見てる。あなたはそうじゃない」。

アナは11歳。急性前骨髄球性白血病である姉ケイトを救うため両親が遺伝子操作によって計画的に出産した。生まれてすぐのころからケイトに何度も臍帯血や骨髄などを提供し続けてきたアナは腎臓も提供することになり、それを拒否するために両親(ジェイソン・パトリック、キャメロン・ディアス)を訴えたのだ。これをどう展開するのかと思ったら、映画は難病もの、家族愛ものに着地させていく。ケイトと同じ病院で治療する急性骨髄性白血病のテイラー(トーマス・デッカー)との短く切実な恋など胸を打つ場面も多く、姉妹を演じるソフィア・ヴァジリーヴァ、アビゲイル・ブレスリン(「リトル・ミス・サンシャイン」)も良い。通常の難病ものではないヒネリがあり、決して悪い映画ではないが、この着地のさせ方に物足りない思いが残った。監督のニック・カサベテスの作品は「ジョンQ 最後の決断」「きみに読む物語」などいいところまで行きながら、傑作にはなりきれていなかった。脚本の詰めに甘さが残る。今回もそんな感じを持った。

「オフレコですが」と前置きして医師(デヴィッド・ソーントン)はケイトの両親にドナーとしての子供を産む方法があることを告げる。両親はすがる思いでそれを実行する。両親が生まれてきたアナに冷酷に接したかと言えば、そうではなく、同じように愛情を注いでいる。しかし難病のケイトを中心に動いている家族であり、アナの兄ジェシー(エヴァン・エリングソン)の失読症の問題も軽く扱われてしまう。死が迫っている子供に比べれば、ドナーも失読症も命にかかわらない軽い問題なのだ。

ドナーとしての子供というテーマはカズオ・イシグロ「わたしを離さないで」や映画「アイランド」に通じるものだ(ついでに書いておけば、平山夢明「テロルの創世」もそうだし、星新一のショートショートにも同じようなシチュエーションの作品があった)。前者は運命を受け入れ、後者はそれを拒否する。これらのSF映画・小説とは異なるこの映画はどうか。実はそこがあいまいなのである。両親を訴えた本当の理由とアナの思いが十分に掘り下げられてはいず、それが傑作と言うことをためらわせる要因になっている。生まれてからずっと病気に苦しんできた姉ケイトの悲痛な生き方には胸を打つものがあり、だからこそテイラーとの短い恋・短い青春が輝くのだが、臓器提供者の意志というテーマは深化せず、難病ものに着地させていく在り方に疑問を覚えるのだ。

ニック・カサベテスの娘は重い病気にかかり、今は回復しているが、病院で一緒に過ごすことが多かったという。それがケイトを中心にした物語になった理由なのかもしれない。この映画、ケイトの描写に関して不満は全然ない。

パンフレットには原作の翻訳者である川副智子がジョディ・ピコーの原作と結末が違うことについて書いている。ファンはこの変更に怒っているらしい。その「小説でしか使えない裏技」を知りたくなったので原作を買った。

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