It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

レッド・オクトーバーを追え!

トム・クランシーの原作は5年前、発売と同時にだが、もうほとんど内容を覚えていない。潜水艦が出てくる話だったなというぐらいのものである。記憶力が悪いのではなく、好みの問題(と思いたい)。ヒー口ーが活躍する冒険小説(例えば、クレイグ・トーマスとか初期のアリステア・マクリーン)は好きなのだが、国際謀略小説(あるいは情報小説)にはあまリ興味がないのだ。原作はヒーローの影が非常に薄かった。クライブ・カッスラーのダーク・ピットシリーズと同じ傾向なのである。映画もこの傾向を払拭しているとは言いがたいけれど、ジョン・マクテイアナン監督のスピーディーな演出によって息をつかせぬ面白さだ。2時間15分の長さをまったく感じなかった。脚本が素晴らしい出来の「ダイ・ハード」では演出の力自体には疑問符を付けざるを得なかったが、これによってマクティアナンは一級の監督であることを証明したと言える。

話は映画向きにかなリ簡略化してある。磁気推進装置(キャタピラー)を備え、ソナーで捉えることのできない原子力潜水艦レッド・オクトーバーをソ連が開発した。これを使えば、防衛網をくぐり抜け、アメリカ大陸のそばまで行って核攻撃を仕掛けることができる。ソ連は軍事的に圧倒的な優位に立ったわけだ。レッド・オクトーバーの艦長マルコ・ラミウス(ショーン・コネリー)は第3次世界大戦の危機だとして潜水艦ごと亡命を図る。アメリカがソ連の最新鋭戦闘機を盗み出す「ファイヤーフォックス」とは逆の展開で、それを止めようとするソ連は大艦隊を繰リ出して必死の追撃を行う。ソ連の真意が分からないアメリカも警戒体制に入る。CIAアナリストのジャック・ライアン(アレック・ボールドウイン)はラミウスを知っていたこともあって、この動きを亡命が目的だと見抜いた。レッド・オクトーバーを巡って米ソの水面下での駆け引きが始まる…。

ラミウスの亡命の動機がちょっと弱いな、と感じたのは見終わってからのこと。映画は前半をグッと抑えた描写に終始し、後半にたたみかけるようなアクションを並べてある。米ソの潜水艦の追撃に加えて、艦内には破壊工作を行う裏切リ者がいる(実は裏切り者は亡命を意図したラミウスと士官の一部の方なのだが)。内外の障害をラミウスかどう乗り切るかが1つの焦点。これにレッド・オクトーバーに乗リ込もうとするライアンの奮闘が加わる。水中魚雷戦の緊迫感、場面転換のテンポの良さが心地よい。ショーン・コネリーがいつものように深みのある演技を見せ、これで大スターの仲間入りをしたというアレック・ボールドウィンもそれが納得できるだけの熱演をしている。アメリカの潜水艦ダラスの艦長マンキューソを演じるスコット・グレン、アメリカ海軍情報局長ジェームス・アール・ジョーンズ、「モンタナに住みたい」と漏らすレッド・オクトーバー副艦長のサム・ニールと出演者はほとんど男優ばかりだが、いい演技者がそろった。俳優の好演を引き出すのも監督の手腕だろう。

ジョン・マクテイアナンの作品は第1作の「ノーマッズ」を除くと、どれも男っぽい映画である。本人も写真を見る限りでは、精悍な感じの人だ。ジョン・フォードとまでは言わないが、少なくともジョン・スタージェスの作風を継ぐような監督になっていくのではないだろうか。アクション映画のファンとしては楽しみな監督である。(1990年7月号)

【データ】1990年 アメリカ 2時間15分
監督:ジョン・マクティアナン 製作総指揮:ラリー・デ・ウェイ ジェリー・シャーロック 製作:メイス・ニューフェルド 原作:トム・クランシー 脚本:ラリー・ファーガソン ドナルド・スチュワート 撮影:ヤン・デ・ボン 音楽:ベイジル・ボールドゥリス
出演:アレック・ボールドウィン ショーン・コネリー スコット・グレン サム・ニール ジェームズ・アール・ジョーンズ ステラン・スカルスゲールド

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