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ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語

原作のルイーザ・メイ・オルコット「若草物語」は何度も何度も映像化されている。IMDbで調べてみると、1917年の最初の映画化以来、劇場用映画だけで本作を含めて7本あった(テレビ用はテレビムービー、テレビシリーズ、アニメなど多数ある)。各レビューサイトの評価では今回のグレタ・ガーウィグ監督版が最も高い評価を得た1本であることは間違いないようだ。ガーウィグは女性の経済的自立というテーマを前面に出し、回想で時制を自由に動かす構成を取り入れているが、原作の物語を大きく改変しているわけではない。手堅い演出と主演のシアーシャ・ローナンをはじめ、アカデミー助演女優賞ノミネートのフローレンス・ピュー、母親役のローラ・ダーンら女優陣の好演が相俟って好結果を生んだのだろう。

19世紀、南北戦争中のアメリカ、マサチューセッツ州ボストンが舞台。マーチ家の四姉妹、メグ(エマ・ワトソン)、ジョー(シアーシャ・ローナン)、ベス(エリザ・スカンレン)、エイミー(フローレンス・ピュー)のうち、小説家志望で活発なジョーが主人公となる。冒頭はニューヨークの出版社にジョーが原稿の持ち込みをするシーン。「女性主人公の結末は結婚するか、死ぬかじゃないと読者が納得しない」などと編集者に嫌みを言われながらも、作品を採用されたジョーは帰り道、嬉しくて思わず駆け出す。躍動感と高揚感にあふれる良いシーンだ。ジョーはニューヨークの下宿で家庭教師をしながら一人暮らしをしていたが、ベスの病状が悪化したとの知らせが入る。ジョーは帰郷しながら過去を振り返る。

マーチ家の父親(ボブ・オデンカーク)は北軍の従軍牧師で、四姉妹は母親(ローラ・ダーン)と慎ましく暮らしていた。母親はキリスト教伝道教会の支部員として献身的に働き、貧しい家庭に自分たちの食料を分けたりする優しい女性。金持ちの伯母(メリル・ストリープ)は姉妹たちに「女の幸せは金持ちの男と結婚すること。女一人で働いても暮らしていけない」と話す。ジョーは富豪の一人息子ローリー(ティモシー・シャラメ)と知り合い、親しくなる。ローリーはジョーにプロポーズするが、小説家になる夢を持ち、ローリーとは性格的に合わないと考えているジョーはそれを断る。

女性の経済的自立を前面に出しているといっても、当時の女性の生き方を全面的に否定しているわけではない。ローラ・ダーンが演じるのは娘たちを優しく見守る理想的な母親の在り方だし、貧乏な教師と結婚した長女のメグは50ドルのドレス生地を買ってしまい、支払いに悩んだ末、夫に「貧乏は嫌」と言ったことを強く後悔する。ローラ・ダーンはガーウィグのパートナーであるノア・バームバック監督の「マリッジ・ストーリー」で有能な女性弁護士を演じてアカデミー助演女優賞を受賞したけれども、この映画での幅の広い演技も考慮された結果だろう。

ガーウィグは週刊誌のインタビューで原作について「私にも物語を作ることができると信じるきっかけを与えてくれた大切な作品」と話している。この映画に描かれた時代よりは進んだが、女性の立場はまだまだ弱い。だからこの映画はそうした女性たちに勇気を与える作品になっている。

映画の内容には関係ないが、邦題からは「若草物語」にインスパイアされた映画のように思えてしまう。原題はシンプルにLittle Women。興行上の観点から邦題をそのまま「若草物語」にするわけにはいかなかったのだろうが、「ストーリー・オブ・マイライフ」というのっぺりした言葉と「わたしの若草物語」という意味不明のサブタイトルの組み合わせはもう少し何とかならなかったのか。

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