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地獄の黙示録 特別完全版

「地獄の黙示録 特別完全版」パンフレットの表紙

23年ぶりに劇場で再見。53分の未公開映像を付け加えたという。が、印象はあまり変わらない。初公開時はキルゴア中佐(ロバート・デュバル)の空の騎兵隊シーンのスペクタクルな描写に興奮と強烈なインパクトを受けたが、今回は2度目のためそれほどでもなかった(もちろんテレビでも何度も見ている)。他のスペクタクルなシーンに関しても同様で、この映像的インパクトがないとなると、「地獄の黙示録」の印象は極めてフツーのものとなる。カーツ大佐(マーロン・ブランド)がなぜ、軍を抜けて密林の奥地に君臨しているのかについてはウィラード大尉(マーティン・シーン)が川を遡る過程で詳細に語られ、確かに全体のストーリーは分かりやすくなっているのだが、分かりやすくなった分、単調にもなった。初公開時には視覚的体験だけに圧倒的な印象を受け、話は二の次だったのだが、今回はストーリーを追うことになる。そうなると、戦場のさまざまな側面を体験させるというこの映画の構成は凡庸なのである。クライマックス、マーロン・ブランド登場シーンの弱さは相変わらず。これは撮り直しができないので仕方ないだろう。よく指摘されるようにブランドとシーンが同じ場面で演技していないのが決定的に弱く、ブランドの一見分かったような哲学的セリフが連続するこのクライマックスを大きく変更しない限り、「地獄の黙示録」は何を追加しても超力作以上の作品にはならないと思う。

今回付け加えられた映像の中ではフランス・プランテーションのシーンが最も長い。戦火の中でも自分たちの土地を動こうとしない、かつてのベトナムの盟主フランス人たちの描写はベトナム戦争の過去と現在(当時の)を結ぶ接点とも言える。しかしコッポラのベトナム戦争に対するスタンスがここで示されるのかと思うと、そうでもなく極めて一般的な見方に終わっている。この映画が作られた時代(ベトナム戦争終結の数年後)を考えれば、戦争に対する視点が明確でなかったのも分かるような気がする。戦争の現実を明確に描くには実に1987年の「プラトーン」まで待つ必要があったのだ。

1975年のベトナム戦争後、アメリカではさまざまな戦争後遺症映画が封切られた。「ドッグ・ソルジャー」のようなアクションから「ディア・ハンター」「帰郷」などの深刻なドラマまで多種多様(「ディア・ハンター」がロシアン・ルーレットの場面で強く非難されたのはご存じの通り)。その中でも「地獄の黙示録」は異色の存在だった。公開前はベトナム戦争をスペクタクルに扱うなんてと思ったものだが、ジョセフ・コンラッド「闇の奥」を元にした脚本はスペクタクルな映像とは異なり、人間の内奥に向かうストーリーだ(今思えば、キルゴア中佐がサーフィンのために村を襲撃する設定は「ビッグ・ウェンズデー」のジョン・ミリアスらしい)。「闇の奥」を持ち出したあたりにコッポラの失敗はあったのではないか。これは文学的アプローチであり、いくらかの普遍性をも持ちうるにしても、戦争の現実からは遠ざかることになる。メタファーとしての戦争でしかないのである。「地獄の黙示録」は下手をすると、「ディア・ハンター」と同じ欠陥を持つところだった。コッポラは要するに自分が何をすればいいのか分かっていなかったのではないかと思う。クライマックスの難解さは監督に迷いがあり、着地点を見いだせなかったことが要因だろう。

キルゴア中佐の場面が実に良くできているのは、そんな映画の中で唯一、明解さを備えているからだ。急いで付け加えておくと、このシーンはもちろん強くデフォルメされており、実際の戦場とは異なるものだろう。ベトナム人の船に出会ったウィラード大尉の一行がふとしたことでベトナム人たちを皆殺しにしてしまうシーンの方がより真実に近い描写と言える。あそこでウィラードの一行は相手が何を考えているか分からないから殺してしまった。これはアメリカ人のベトナム人に対する考え方と同じものである。ただし、最初に引き金を弾くのは黒人のローレンス・フィッシュバーンではなく、白人の方がよりリアルだったかもしれない。

ドアーズの「ジ・エンド」やローリングストーンズ「サティスファクション」を聞くと、個人的にはノスタルジーに近い気持ちを抱く。マーティン・シーンやハリソン・フォードが若いのは当然だが、ローレンス・フィッシュバーン(クレジットではラリー・フィッシュバーン)の初々しさには驚いた。当時はマーロン・ブランドを除くとノースターの映画と言われたが、今となってはオールスターキャストの映画になっている。

【データ】2001年 アメリカ 3時間23分 配給:日本ヘラルド
監督:フランシス・フォード・コッポラ 製作:フランシス・フォード・コッポラ 共同製作:フレッド・ルース ゲイリー・フレデリクソン トム・スタンバーグ 脚本:ジョン・ミリアス フランシス・フォード・コッポラ 音楽:カーマイン・コッポラ フランシス・フォード・コッポラ 撮影:ヴィットリオ・ストラーロ 美術:ディーン・タボラリス ナレーション:マイケル・ハー
出演:マーロン・ブランド ロバート・デュバル マーティン・シーン フレデリック・フォレスト アルバート・ホール サム・ボトムズ ローレンス・フィッシュバーン デニス・ホッパー G・D・スプラドリン ハリソン・フォード ジェリー・ザイスマー スコット・グレン シンシア・ウッド コリーン・キャンプ リンダ・カーペンター クリスチャン・マルカン オーロール・クレマン

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