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シネマ1987online

スペース カウボーイ

「スペース カウボーイ」

かつてのライト・スタッフでスペースシャトルに乗ったジョン・グレンがいなかったら、この映画生まれなかったのではないかと思う。むろん、ジョン・グレンの場合は老人の宇宙滞在のデータを取るというミッションもあったのだろうが、40年前に宇宙への夢を断たれた元ライト・スタッフ4人(新聞に“ライプ・スタッフ”とからかわれる)が宇宙を目指すこの映画、決して老人力をひけらかすわけではない。設定の無理を承知の上で今年70歳のクリント・イーストウッドは、宇宙にかける男の夢をファンタスティックに歌い上げた。ジェームズ・ガーナーとドナルド・サザーランドが老人の立場で登場してもイーストウッドとトミー・リー・ジョーンズに関する限り、これは30代、40代の男であっても別にかまわないわけで、自分の老いを逆手にとっているのではないのである。老いを前面に出していたら、コメディにしかならない題材だろう。NASAが全面協力したという後半の宇宙の場面が素晴らしい出来。前半の単調さを大いに補っている。

レトロな雰囲気のモノクロ画面で映画は幕を開ける。1958年、空軍パイロットのフランク・コービン(クリント・イーストウッド)とホーク・ホーキンズ(トミー・リー・ジョーンズ)らチーム・ダイダロスのメンバー4人は宇宙飛行を夢見て訓練を続けていた。しかし、上司のボブ・ガーソン(ジェイムズ・クロムウェル)が最初の宇宙飛行士に選んだのは人間ではなく、チンパンジーだった。40年後、既に引退しているコービンにNASAから協力要請が来る。ロシアの通信衛星アイコンが壊れ、地球に落下しようとしているというのだ。アイコンのシステムはかつてのスカイラブ(懐かしい)のものと同じで、スカイラブの設計を担当したコービンに白羽の矢が立ったのだった。コービンは宇宙での修理を引き受けるが、メンバーにはチーム・ダイダロスの仲間を要求。4人は老骨にむち打って過酷な訓練を乗り切り、念願の宇宙に旅立つ。

イーストウッドは前半の訓練場面にホークとNASAの女性科学者サラ(マーシア・ゲイ・ハーデン)との愛を絡めたりして変化を持たせてはいるが、やや退屈。その代わり、宇宙に行ってからの場面がとにかく良くできている。システムを回復したアイコンがシャトルに衝突し、ガチャンガチャンと本来の姿を現す場面は緊張感にあふれる。なんとなく「アイアン・ジャイアント」を思わせる変貌なのである。無重力の描写からシャトル内部・外部のセットまで宇宙に関する場面は特筆に値する出来。シャトルの機体が損傷したまま大気圏に再突入する場面もいい。細部のリアルさが抜きんでていると思う。宇宙の場面が全体の半分以上を占めていたら、何も言うことはなかった。

ここが短いためにアイコンの修理があまりにも簡単に行きすぎる印象を受けるし、膵臓ガンを病んだホークが自分の運命を受け入れたうえで夢を実現するシーン(分かりにくい書き方で申し訳ない)の気持ちの変化もやや説得力に欠けると思う。イーストウッドの狙いが夢を実現する男たちを描くことにあったことは明らかだが、この技術を使って全編宇宙を舞台にした映画を観てみたいものだ、と長年の宇宙SFファンとしては思わざるを得ない。

【データ】2000年 アメリカ 2時間10分 配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:クリント・イーストウッド 製作総指揮:トム・ルッカー 製作:クリント・イーストウッド アンドリュー・ラザー 脚本:ケン・カウフマン ハワード・クラウスナー 撮影:ジャック・N・グリーン 美術:ヘンリー・バムステッド 音楽:レニー・ニーハウス 衣装:デボラ・ホッパー 視覚効果監修:マイケル・オーウェンズ
出演:クリント・イーストウッド トミー・リー・ジョーンズ ドナルド・サザーランド ジェームズ・ガーナー ジェイムズ・クロムウェル マーシア・ゲイ・ハーデン ウィリアム・ディベイン ローレン・ディーン コートニー・B・バンス バーバラ・バブコック シャーベジア ブレア・ブラウン

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