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ザ・メキシカン

「ザ・メキシカン」

ブラッド・ピットとジュリア・ロバーツの“夢の競演”が売りだが、実際の共演場面が少なすぎる。2時間3分の映画の中で2人が同じ場面に収まるのは15分に満たないのに、共演と言っていいのかどうか。ピットのエピソードとロバーツのエピソードが噛み合うようでほとんど噛み合わず、不要な場面も多すぎる。単に2人のスケジュール調整ができなかったのだろうが、結果としてそれぞれが主演の2本の映画を見るような印象を与えることになった。そもそもの企画に無理があったのだろう。脚本はそういう苦しい状況を反映して工夫の跡は見られるけれど、やはり苦しいことに変わりはない。演出もそれに輪をかけてまずい。「マウス・ハント」のゴア・ヴァービンスキー、ユーモアを絡めた場面を見事に失敗している。ことごとく頬が引きつるようなつまらなさである。例外はクレジットされていないジーン・ハックマンの出演シーンで、画面がきりっと引き締まった。俳優の貫禄というべきか。

ケチなチンピラのジェリー・ウェルバック(ブラッド・ピット)が組織からメキシコの伝説的な拳銃“メキシカン”をアメリカまで運ぶよう命じられたのが発端。これに成功したら組織から抜けられるとの約束だが、ジェリーと同棲しているサマンサ(ジュリア・ロバーツ)はそんなジェリーに嫌気が差して単身、ラスベガスに向かう。メキシコに到着したジェリーは拳銃を持つベック(デビッド・クラムホルツ)に会い、銃を受け取るが、ベックは祭りの流れ弾に当たって事故死してしまう。ベックは組織のボス、マルゴリースの孫。ジェリーは5年前、マルゴリースの車に追突し、トランクに拉致された男がいたことからマルゴリースを刑務所送りにした過去がある。しかもベックの死体と拳銃を乗せた車を誰かに盗まれてしまった。絶体絶命のジェリーは仕方なく1人で拳銃を探し始める。一方、サマンサはラスベガスで2人の殺し屋に狙われる。そのうちの1人リロイ(ジェームズ・ガンドルフィーニ)はサマンサを拉致し、メキシカンを手に入れようとする。

主演の2人がメキシコとラスベガスに向かってからはまったく別の映画。サマンサとリロイの交流などは本筋から離れたどうでもいいような場面である。これが延々と続くのでうんざりする。メキシコの場面も手際が悪く、お宝を巡る争奪戦ならば、同じピット主演の「スナッチ」の方がよほど良くできている。2時間3分は長すぎる。この内容ならば、1時間30分程度で十分だった。また、伝説の銃を巡るエピソードをヴァービンスキーはセピア調の色彩でサイレント映画のように演出しているが、これも映画の調子を狂わせている。監督の構想としてはユーモア・ラブロマンスのセンを狙ったのかもしれないけれど、技術が伴わず、洗練とも無縁の映画である。ピットとロバーツもこの脚本、演出ではどうしようもなかっただろう。

【データ】2001年 アメリカ 2時間3分 ギャガ=ヒューマックス共同配給
監督:ゴア・ヴァービンスキー 製作:ローレンス・ベンダー ジョン・バルデッチ 製作総指揮:ウィリアム・タイラー クリス・J・ポール アーロン・ライダー J・H・ワイマン 脚本:J・H・ワイマン 撮影:ダリウス・ウォルスキー プロダクション・デザイナー:セシリア・モンティエル 編集:クレイグ・ウッド 衣装デザイン:コリーン・アトウッド 音楽:アラン・シルベストリ
出演:ブラッド・ピット ジュリア・ロバーツ ジェームズ・ガンドルフィーニ ボブ・バラバン J・Kシモンズ デヴィッド・クラムホルツ マイケル・セルベリス シャーマン・オーガスタ カストゥーロ・ゲッラ ジーン・ハックマン(クレジットなし)

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