It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

ターミネーター4

心臓と脳は人間で体は機械。映画にサイボーグという言葉は出てこないが、マーカス・ライト(サム・ワーシントン)はサイボーグにほかならない。同じ構造のロボコップがそうであったようにマーカスにも悲哀が漂う。スカイネットによる核戦争が勃発したジャッジメント・デイ(審判の日)の後、機械が支配した未来社会での人類の抵抗戦を描くこの映画、マーカスという新キャラクターを作ったことで作品に奥行きが生まれた。ジョン・コナーよりもカイル・リースよりも苦悩を背負うマーカスの方が主役にふさわしい深みを兼ね備えているのだ。

アメリカでのややネガティブな評価を読んでいたし、脳天気な「チャーリーズ・エンジェル」の監督という先入観があったのでマックGの演出にも不安を持っていたが、単なるSF戦争アクションではなく、そうした奥行きがあることで評価できる作品になったと思う。明るい「スター・トレック」とは正反対の暗さのため万人受けはしないと思うが、マーカスの行く末を知るためにも続きが見たくなる。惜しいのはジョン・コナーの運命。製作者たちにもう少し見識と勇気があれば、あそこでああいう展開にはしなかっただろう。斬新な映画になり損ねたのが悔やまれる。

兄と警官2人を殺したマーカスは2003年、死刑になる。その直前、サイバーダイン社のセレーナ・コーガン(ヘレナ・ボナム・カーター)と献体の契約を交わしていた。2018年、マーカスはなぜか復活し、抵抗軍のLA支部にいたカイル・リース(アントン・イェルチン)と出会う。支部といっても、カイルと口のきけない少女スター(ジェイダグレイス・ベリー)の2人だけ。マーカスは行動をともにするが、カイルとスターは大型輸送機トランスポートに捕らわれ、スカイネットの基地に連れ去られてしまう。マシンの一番の標的はジョン・コナー(クリスチャン・ベイル)の父親となるカイルだった。救援に現れた戦闘機A-10の女性パイロット、ブレア・ウィリアムズ(ムーン・ブラッドグッド)に導かれ、マーカスは抵抗軍の基地に向かう。そのころ、抵抗軍はマシンを制御する短波を発見、4日後にスカイネットの基地に総攻撃をかけることを決断する。人質を見殺しとする司令部の方針にコナーは反対し、カイル救出に向かう。

カイルを演じるアントン・イェルチンは「スター・トレック」のチェコフ役。ロシア語なまりの英語とたぐいまれな才能を発揮する場面で大いに笑わせてくれたが、今回はシリアスな演技を見せる。クリスチャン・ベイルは「ダークナイト」に続いて暗い演技で悪くはない。しかし、この映画で光っているのはサム・ワーシントンとムーン・ブラッドグッドだ。マーカスの正体を知ったブレアはそれでもマーカスを逃がそうとする。スカイネットの基地で自分の本当の役割を知らされるマーカスの姿は悲しい。「司令部は、マシーンのように冷徹に戦えという。我々は人間だ。マシーンと同じなら勝利になんの意味がある」。そういうコナーのセリフと相まって、機械と人間の違いというテーマをもっと前面に出していれば、映画は「ブレードランナー」に連なる傑作と胸を張って呼べたことだろう。

スケールの大きなアクション場面などマックGの演出はほめるべきだが、テーマを深化させるところで配慮がやや足りなかった。SF戦争アクションのその先に到達しそうでしなかったのはかえすがえすも惜しい。

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