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ナインスゲート

「ナインスゲート」

悪魔を呼び出すとされる古書をめぐるオカルト・ミステリ。最近の流行から言えば、クライマックスには派手なSFXを使うところだが、ロマン・ポランスキー監督はそんな安易でありふれた方法を採らず、じっくりストーリーを語って好感が持てる。ポランスキーの作品としては「吸血鬼」「ローズマリーの赤ちゃん」に連なる映画で、悪魔崇拝では「ローズマリーの赤ちゃん」、ユーモアで「吸血鬼」と共通している。ジョン・ダニング「死の蔵書」の主人公のような古書探偵を演じるスリーピー・ホロウ」に続いて好調と言うほかなく、映画の随所にあるユーモアもデップの存在が大きい。本筋が始まる前に描かれる「ドン・キホーテ」の稀覯本を詐欺のような方法で手に入れる場面のおかしさがこの映画と主人公の性格を象徴している。デップは二枚目半の役柄がピッタリになってきた。

ニューヨークの古書探偵ディーン・コルソ(ジョニー・デップ)が、悪魔関係の古書収集家ボリス・バルカン(フランク・ランジェラ)から依頼を受ける。バルカンが所有する1666年発行の悪魔祈祷書「影の王国への九つの扉」の真贋を見極めて欲しいというのだ。この本は世界に3冊しかなく、残る2冊はスペインとフランスにあった。コルソは本を預かり、まずバルカンが本を入手したテルファーの家を訪ねるが、テルファーは既に自殺。未亡人のリアナ(レナ・オリン)には怪しいところがあった。スペイン、パリと調査を進めるうちに、本の持ち主2人は何者かに殺される。コルソの調査には謎の女(エマニュエル・セイナー)がつきまとう。リアナも悪魔崇拝者らしくコルソから執拗に本を取り戻そうとする。そしてこの本の意外な事実が明らかになる。果たしてこの本は本当に悪魔を呼び出せるのか。

パンフレットにあるインタビューでポランスキーは「ジャンル映画の戯画化」とはっきり言っている。「私は宗教的な人間ではないから、悪魔なんて信じていない。だからこの手の映画を作ると、どうしてもアイロニーが入り込んでしまうんだ」。ただし、映画の作りは冗談ではなく、本物志向。自在な語り口と奥行きのある映像でダークな世界を現出している。言うまでもないことだが、凡百のB級ホラーとは異なり、基本的な技術がしっかりしているのである。エンタテインメントでもポランスキー、手を抜いてはいない。本質的にこういう映画が好きなのだろう。

フランク・ランジェラは見せ場は少ないが、ドスのある声で好演。女優のセンスも良く、「フランティック」「赤い航路」に続くポランスキー作品となるエマニュエル・セイナー、相変わらず悪女が似合うレナ・オリンが魅力的だ。ポランスキーには悪魔崇拝はなくとも、悪女崇拝の傾向はあるのではないか、と思う。

【データ】1999年 スペイン・フランス 2時間13分 アルチザン・ピクチャーズ 配給:ギャガ・ヒューマックス
製作・監督:ロマン・ポランスキー 原作:アルトゥーロ・ペレス・レベルデ「呪のデュマ倶楽部」 脚本:アンリック・ユルズビー ジョン・ブラウンジョン ロマン・ポランスキー ライン・プロデューサー:スザンヌ・ワイセンフェルド 製作総指揮:ウォルフガング・グラッテス マイケル・チェイコ 共同プロデューサー:イナキ・ヌュナズ アントニオ・カーディナル アレイン・ヴェニエ 撮影:ダリウス・コンディ 美術:ディーン・タヴラリス 音楽:ヴォイチェック・キラール 衣装:アンソニー・パウエル
出演:ジョニー・デップ フランク・ランジェラ レナ・オリン エマニュエル・セイナー バーバラ・ジェフォード ジャック・テイラー トニー・アモーニ ジェームズ・ルッソ ホセ・ロペス・ロデロ

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