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ミッション・トゥ・マーズ

「ミッション・トゥ・マーズ」

ブライアン・デ・パルマ監督が手がけた初の宇宙SFで、デ・パルマ版「2001年宇宙の旅」とも言える内容。素晴らしくリアルなSFXを見せてくれるが、あまりにもありふれた結末に唖然としてしまう。見終わって複雑な気分になるのである。なぜこれほど素晴らしい技術があるのに、こんなにつまらない結末にしたのか。もったいない、としか言いようがない。実際、中盤の宇宙のシーンは他に例を見ないハードSF的描写が続き、期待が高まるのである。宇宙船への流星塵の衝突から船外活動での修理、にもかかわらず宇宙船が損壊、脱出、火星への自由落下(フリー・フォール)…。人間が惑星へ自由落下する場面を実写でこれほどリアルに描いた映画はほかにないと思う。ここだけでもとても貴重な映画である。なのにこの結末…。宇宙人の造型は使い古されたヒューマノイド型、事の真相もいつかどこかで見たような内容。脚本(グラハム・ヨストほか)にSF作家が加わっていれば、とかえすがえすも残念でならない。

2020年、人類は初めて火星に到達する。4人のクルーは火星探査の途中、巨大な白い山のようなものを発見。それにレーザーを向けた途端、4人は巨大な砂の渦巻きに襲われ、3人が死んでしまう。生き残ったルーク(ドン・チードル)から通信を受けた宇宙ステーションは救出のため、火星に2番目のクルーを送る。メンバーはウッディ(ティム・ロビンス)とテリー(コニー・ニールセン)の夫婦、妻を亡くしたジム(ゲイリー・シニーズ)、若いフィル(ジェリー・オコーネル)の4人。4人は順調に飛行を続けるが、火星まであとわずかというところで流星塵が宇宙船を貫通する。修理できたと思ったが、船体にはほかにも穴があり、燃料が漏れだしてエンジンが爆発。4人は宇宙服で脱出し、火星軌道にある補給船に乗り移ろうとする。この途中、ウッディが死亡。残った3人は何とか火星に到達し、生き残っていたルークと再会する。そして不思議な物体の秘密を探り、それが何らかのメッセージを出していることを突き止める。

登場する宇宙ステーションや宇宙船は回転することによって、遠心力を発生させ、重力の代わりにしている。「スター・ウォーズ」以降、人工重力など当たり前、といった安易な描写が普通になっている中で、この映画は「2001年宇宙の旅」と同様に、今ある科学技術を発展させた形でのSFXを展開しているのである。回転する宇宙ステーションなど久しぶりに見た。他のスペースオペラが無視してきた部分をリアルに再現していることには好感が持てる。それはNASAが全面協力していることと無関係ではないだろう。「『NASAに忠実であること』が製作スタッフの重要課題となった」とパンフレットにはある。なにしろ宇宙船にもしっかり「NASA」の文字があるのだ。宇宙服や火星軌道上にある物資補給船、宇宙船内の細部の美術も非常に納得のいくものである。火星への飛行にはうまく軌道に乗って6カ月かかるという設定は現実に即して考えれば、極めて当たり前の描写である。ただし、こうした素晴らしい宇宙の描写に比べて、火星での描写には特に際だったところはなく、過去の火星を舞台にした作品とそれほどの差はない。マーズ・パス・ファインダーが詳細な火星の姿を探ったとはいえ、まだ誰も行ったことがないのだから、これは仕方がないのだろう。

マニアックとも言える宇宙の描写にSFファンなら刮目するだろう。だからこそ、脚本の弱さが惜しまれる。ロバート・ゼメキス「コンタクト」ではクライマックスに登場する宇宙人の姿を人間の形で見せ、陳腐さを回避していたが、この映画のクライマックスもああいう処理で構わなかったと思う。現実からフィクションへと飛翔するビジョンが決定的に足りなかった。非常に惜しいところで傑作になりそこねている。

【データ】2000年 アメリカ 1時間54分 タッチストーン・ピクチャーズ スパイグラス・エンターテインメント提供 配給:ブエナ・ビスタ・インターナショナル
監督:ブライアン・デ・パルマ 原案:ローウェル・キャノン ジョン・トーマス ジム・トーマス 脚本:ジム・トーマス ジョン・トーマス グラハム・ヨスト 製作:トム・ジェイコブソン 製作総指揮:サム・マーサー 撮影:スティーブン・H・ブラム プロダクション・デザイン:エド・バリュー 視覚効果監修:ホイト・イートマン ジョン・ノール 衣装デザイン:サーニャ・ミルコビッチ・ヘイズ 音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:ゲイリー・シニーズ ティム・ロビンス ドン・チードル コニー・ニールセン ジェリー・オコーネル ミューラー・スタール ピーター・アウターブリッジ キャバン・スミス ジル・ティード キム・デラニー

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