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マルコヴィッチの穴

「マルコヴィッチの穴」

15分間だけ俳優のジョン・マルコヴィッチになれる穴を巡る奇妙な味わいの映画。2000年アカデミー賞で助演女優、監督、オリジナル脚本の3部門にノミネートされた(受賞はなし)。大変ユニークなストーリーだが、ワンアイデアに終わらず、ストーリーをSF的に発展させている点に感心させられる。なぜマルコヴィッチになれるかの(一応の)説明もあるのだ。アイデンティティーや性同一性障害の話が出てくるけれど、そちらが本筋ではなく、三角(四角?)関係を中心に据えたユーモアタッチがいい。あくまでもエンタテインメントなのである。伏線をきちんと張ったチャーリー・カウフマンの脚本は秀逸。初監督のスパイク・ジョーンズの演出も真っ当で、非現実的題材を手際よくまとめている。ちょっと欲を言えば、展開に納得はしたものの、こちらが驚くほどの意外性はなかった。SF的なアイデンティティーの話なら「ダークシティ」や「マトリックス」が上だろう。

売れない人形使いのクレイグ(ジョン・キューザック)は生活のためにある会社に就職する。オフィスは7階と8階の間の天井の低い7と1/2階にある(8と1/2階でないのがいい。ここの由来も説明される)。従業員はみんな背をかがめて歩いているという構図がまずおかしい。クレイグはここで美しいOLマキシン(キャスリーン・キーナー)と出逢い、一目惚れするが、相手にされない。ある日、クレイグはキャビネットの裏に小さなドアを発見する。中に入ると、そこは俳優ジョン・マルコヴィッチの頭の中だった。そこではマルコヴィッチの目で外を見て、感じることができる。15分後なぜか高速道路の脇に落下する。クレイグとマキシンはこの穴で商売を思いつく。1回200ドルでマルコヴィッチを体験させるわけである。別の人間になってみたいという欲求を持つ人間が多いためか、商売は大繁盛。クレイグの妻ロッテ(キャメロン・ディアス)もこれを体験し、病みつきになる。実はロッテは性転換を望む性同一性障害を持っている。マルコヴィッチの穴に入った時、マルコヴィッチとマキシンが愛し合ったことから、マキシンを愛してしまうのだ。クレイグも絡めた複雑な四角関係が生じることになる。

映画は後半、穴の秘密とクレイグの野望を軸にストーリーを展開させる。クレイグが人形使いであるという設定が生きてくるのはここからで、少し見え見えではあるが、まあ仕方ないだろう。マルコヴィッチは周辺の異変に気づき、クレイグたちを問い詰め、自分でも穴の中に入る。そこの処理はおかしい場面になっているけれど、ちょっと納得いかない。ああいう風にはならないだろう。鏡を2つ合わせて中をのぞき込むような感じになるのではないかと思う。あるいは“クラインの壺”か。穴の秘密は「永遠に美しく…」のようなものである。ただ、この脚本のオリジナリティーは大いに認めなければならない。ストーリーの底に意地の悪さも透けて見えるこの脚本、なぜこういう発想が浮かんだのか不思議だ。

ジョン・キューザックは長髪とひげ面で最初はだれだか分からなかった。キャスリーン・キーナーはしどけない色っぽさがいい。本人として登場するジョン・マルコヴィッチほか、ゲスト出演的なスターの使い方(特にチャーリー・シーンのおかしさ)も楽しい。

【データ】1999年 アメリカ 1時間52分 ユニバーサル・インターナショナルピクチャーズ提供 シングル・セル・ピクチャーズ グラマシー・ピクチャーズ プロパガンダ・フィルムズ作品 配給:アスミック・エース
監督:スパイク・ジョーンズ 脚本・製作総指揮:チャーリー・カウフマン 製作:マイケル・スタイプ サンディ・スターン スティーヴ・ゴリン ヴィンセント・ランディ 撮影:ランス・アコード プロダクションデザイン:K・K・バーレット 衣装:ケイシー・ストーム 音楽:カーター・バーウェル
出演:ジョン・キューザック キャメロン・ディアス キャスリーン・キーナー オースン・ビーン ウィリー・ガースン バーン・ピヴン グレゴリー・スポレダー チャーリー・シーン ネッド・ベラミー スパイク・ジョーンズ ジョン・マルコヴィッチ ショーン・ペン ブラッド・ピット ウィノナ・ライダー アイザック・ハンスン

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