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シネマ1987online

M : I-2(ミッション・インポッシブル2)

「ミッション・インポッシブル2」

「ミッション・インポッシブル」の4年ぶりの続編というよりは、ジョン・ウー監督らしいアクション映画に仕上がっている。ブライアン・デ・パルマ監督の前作が物語の世界を壊すベクトルを持っていたのに対し、ジョン・ウー版は物語の設定だけを借りてあとは自由にやらせていただきました、という感じ。中盤以降のアクションの切れ味はなかなかのもので、クライマックスのオートバイの追跡シーンは白眉。主演のイーサン・ハント役トム・クルーズも肉体を鍛え上げ、カンフーを駆使したアクションを頑張っている。惜しいのはぎりぎりに追いつめられた主人公の感情が爆発するような場面がないこと。「男たちの挽歌」など香港時代のジョン・ウー映画にあったエモーショナルな高まりがあまり感じられないのである。激しいアクションの裏付け、あるいは必然性に乏しい。それまで指令で動いていた主人公は中盤から愛する女を助けるために行動するようになる。これがエモーションを高めそうで高めないのがつらいところだ。アクションは堪能できるのに、全体的に薄味な感じがするのはそのためだろう。

物語は人を30時間余りで死に至らしめる強力な殺人ウイルス「キメラ」を巡る攻防。ハントは盗まれたキメラを女大泥棒のナイア・ホール(タンディ・ニュートン)と協力して取り戻すようIMF司令官のスワンベック(アンソニー・ホプキンス)から指令を受ける。盗んだのは元IMFの諜報員ショーン・アンブローズ(ダグレイ・スコット)。ナイアはアンブローズの元恋人で、IMFの狙いはアンブローズの元に潜入させ、情報を探ることにあった。アンブローズはキメラとそのワクチンであるベレロフォンを製薬会社に売りつけようとしている。ハントが製薬会社の研究室に侵入し、アンブローズの一味と銃撃戦になるのが中盤の見せ場。トム・クルーズは横っ飛びで銃を撃ったり、カンフーアクションを披露する。ここで危機に陥ったハントを助けるため、ナイアはただ一つ残ったキメラを自分に注射してしまう。救うには20時間以内にワクチンを注射しなければならない。あまりにもジョン・ウー的なシチュエーション、演技である。ここからハントの目的が任務からナイアを助けることに変わるわけである。

キネマ旬報7月下旬号に掲載されたジョン・ウーのインタビューを読むと、ウーがいかにアクション映画を良く分かっているか理解できる。「どんなアクションシーンでもフィーリングの無い、感情のないものは嫌だね。アクションのためのアクションは、嫌いだ。ハリウッド映画にはそうしたアクションが結構多いけど、闘う者たちの心が感じられないアクションは、ただの見せ物にすぎず、観客の心を動かさない」。まさにその通り。主人公の気持ちが高ぶって歌になり、それが高じて踊りになる、というミュージカルの定義と同様のことがアクション映画にも言えるのである。アクションの背景に主人公の感情の爆発がなければ、それはウーの言う通り“ただの見せ物”に過ぎない。今回、そこがうまくいかなかったのは脚本の設定が弱かったからだろう。ハントとアンブローズがライバル的関係で、そこに女が絡み三角関係に発展するというシチュエーションはやや安易な気がする。イーサン・ハントが強すぎることも大きく影響していると思う。

このインタビューで、ウーは影響を受けた監督としてサム・ペキンパーやヒッチコックの名前を出している。ウーのアクションに欠かせないスローモーションがペキンパーの影響なのはすぐに分かるが、ヒッチコックは意外だった。そう言えば、敵に潜入するナイアは「北北西に進路を取れ」のエヴァ・マリー・セイントや「泥棒成金」のグレース・ケリーを彷彿させる役柄ではある。セイントやケリーほどの優雅な美しさには欠けるけれども。

【データ】2000年 アメリカ 2時間4分 パラマウント映画提供 配給:UIP
監督:トム・クルーズ ポーラ・ワグナー 製作総指揮:テレンス・チャン ポール・ヒッチコック 脚本:ロバート・タウン ストーリー:ロナルド・D・ムーア ブラノン・ブラガ 原案テレビシリーズ創作:ブルース・ゲラー 撮影:ジェフリー・L・キンボール 音楽:ハンス・ジマー 視覚効果スーパーバイザー:リチャード・ユリッチ 衣装:リジー・ガーディナー
出演:トム・クルーズ ダグレイ・スコット タンディ・ニュートン リチャード・ロックスバーグ ジョン・ボルソン ブレンダン・グリーソン レイド・セルベッジア ヴィング・レイムス

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