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アンブレイカブル

「アンブレイカブル」

主人公の秘密はあっさりわかってしまい、そこから先に大きな発展はない。「シックス・センス」のように最後に主人公の秘密が明かされるミステリを期待すると肩すかしを食うことになる。その代わり、主人公に秘密を教える男の話が興味深い。これはつまり、アメリカン・コミックスの世界を真実と信じてしまった男の悲劇。それは他人から見れば妄想としか思えないものだが、真実の証明として主人公が現れてしまう(男が強引に見つけだしてしまう)。M・ナイト・シャマランの語り口は前作同様ミステリがかっており、パズルを組み立てるように物語を構成していく。ここがシャマランの利点でもあるのだが、今回は大きなツイストはない。パズルが組み合わさった後に明らかになる物語を肯定するか、否定するかは観客の嗜好に委ねられる。脇役の男が自分の役割を初めて理解するシーンは悲劇に彩られるけれども、主人公の悲劇性が浮き彫りになった「シックス・センス」に比べると、物語としては弱い。本当はこの脇役の男の立場から描くべき話だったのではないか。脇役の男を主人公にしてしまえば、前作と同様、悲劇と意外性はいっそう強調されただろう。シャマランは前作と同じ映画になることを避けて、こういう展開を選んだのだろうが、主人公の設定をひねりようがないので中盤が単調に感じられる。

131人が死んだ列車事故で主人公デヴィッド・ダン(ブルース・ウィリス)はただ一人生き残る。しかもまったくの無傷で。「なぜ自分だけが」と不審に思うデヴィッドにある日、手紙が届く。「君は今まで病気にかかったことがあるか?」。“Limited Edition”と書かれた手紙の差出人はアメリカン・コミックスの収集家イライジャ・プライス(サミュエル・L・ジャクソン)だった。イライジャはデヴィッドに生き残った理由として驚くべき真相を伝える。この段階でイライジャの語る真相は想像に過ぎないが、デヴィッドは自分でもそれを一つ一つ確かめ、事実であることを知らされるのだ。自分の役割を知り、それを実行した時、デヴィッドは長年悩まされてきた、朝の目覚めの悪さを克服していることに気づく…。このプロットは小説で言えば、短編のアイデアだろう。シャマランはデヴィッドと妻の不仲や息子との交流など家庭的な部分を追加して膨らませているが、本筋とはあまり関係ない描写に終わっている。中盤が起伏に乏しいのはこのためでもある。

「シックス・センス」の映画評を読み返してみたら、“好みから言えば、ウィリスの立場よりも少年の立場から描いた方がSF的になって良かったとは思う”と僕は書いている。実は今回はこれを実践した映画となっている。誤解されないようにはっきり書いておくと、これは超能力者の立場から描く、という意味である。超能力者が自分の力に目覚め、実践していく話。だから今回、SF方面では評価が異常に高い。しかしこれは精神科医が少年の力を役立つ方向に向かわせた「シックス・センス」を裏返しただけであり、テーマ的にはほとんど同じなのである。シャマランは超能力者の立場から描きながら、前作と同じ手法を視点を変えただけで繰り返してしまった。「デッド・ゾーン」や「マトリックス」のようにストレートに描くべきだったのである。

シャマランの脚本は500万ドルももらった割には芸がないと言えば芸がないのだが、シャマランがこのジャンルに大きな関心を持っていることはこれで証明されたと言える。今回の語り口が成功しているとは思わないけれど、シャマランの映画には注目していきたい。デヴィッド・クローネンバーグあたりのSFセンスを取り入れると、シャマランはSF映画の中心的存在になるのではないかと思う。

【データ】2000年 アメリカ 1時間47分 配給:ブエナ・ビスタ・インターナショナル
監督:M・ナイト・シャマラン 製作:バリー・メンデル サム・マーサー M・ナイト・シャマラン 脚本:M・ナイト・シャマラン 撮影:エドゥアルド・セラ プロダクション・デザイナー:ラリー・フルトン 編集:ディラン・ティシュナー 音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード コスチューム・デザイナー:ジョアンナ・ジョンストン
出演:ブルース・ウィリス サミュエル・L・ジャクソン ロビン・ライト・ペン スペンサー・トリート・クラーク シャーレーン・ウッダード

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