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キャスト・アウェイ

「キャスト・アウェイ」

撮影に1年間の休止期間を設け、トム・ハンクスはこの間、25キロ減量したそうだ。前半、無人島に漂着した直後はいつもより太っている感じだが、それから4年を経た設定の後半は精悍な体つきになっている。トム・ハンクスに関してはアカデミー主演男優賞ノミネートに恥じない熱演と言っていいだろう。映画全体としてみると、無人島での4年間で、主人公がすっかりアクティブさを失っていることが気になる。冒険小説でよくある「死の直前から生還した男」は過酷な体験を経て自分のネガティブな部分を克服するのが常だけれど、この映画の主人公の場合、それはなく諦観に至るだけなのである。描写のそれぞれには納得しながらも、映画が今ひとつ魅力に欠けるのはこういうアクティブな部分がないからだろう。主人公が到達したのが「生き続けるにはただ息をすることを続ければいい」という認識ではあまりにも収穫がなさすぎるのではないか。

映画の主人公チャック・ノーランドは宅配便会社フェデックスで働く。時間を大事にし、分刻みで世界を飛び回っている。恋人ケリー(ヘレン・ハント)とのデートもままならない仕事人間だ。ある日、出張で乗った会社の飛行機が太平洋上でトラブルを起こし、海に不時着する(このシーンの迫力は凄い)。チャックだけが生き残り、無人島に流れ着く。ここから過酷なサバイバルが始まる。道具を工夫し、ヤシの実を割って食べ、手を傷だらけにしながら火をおこす。けがや病気になっても治療の手段はない。チャックは恋人の写真を入れた時計とバレーボールに描いた顔ウィルソンを話し相手に無人島で4年間過ごす。映画は丹念に丹念にこうした場面を描いていく。ただし、無人島生活のノウハウはよく分かるものの、主人公が精神的に追いつめられた切実さはそれほど伝わらない。後で自殺を図ったことなどがセリフで説明されるだけだ。ノウハウ的部分よりもそういう部分こそ十分に描くべきだった。

島の周囲には高い波が打ち寄せ、脱出は不可能なのだが、チャックは流れ着いた材料を使い、イカダに帆を張ることを思いつく。そして風の力で高波を乗り越え、外洋に出ることに成功する。長期間の漂流の後、帰還。しかしケリーはチャックが死んだと思い、既に別の男と結婚していた。ここでまた主人公は苦難を乗り越えなければならないことになる。映画は生き続けることの意味とか、主人公の考え方の変化をここで描くのだが、どうも無人島生活の意味が際だたない。これでは単に不幸な経験をした男の話に過ぎないのではないか。たとえ、人生の真の意味を見つけたにしても、主人公が前半のアクティブさを失っているのでは面白くない。

もちろん過酷な経験をした人間が必ず弱さを克服するわけではないだろう。ダメになる人もいるだろうし、何も変わらない人もいるかもしれない。序盤の描写が終盤に生きてこないのが困るのである。過酷な体験をした主人公の変貌を描きたかったのなら、序盤にもう少し伏線をちりばめ、変化をもっと明確に描く必要があっただろう。無人島での生活とそこからの脱出に1時間半近く割かれるため、ここが中心の映画としか思えないのである。それならば、序盤と終盤を長々と描く必要はなかった。この映画の休止期間中に撮影された「ホワット・ライズ・ビニース」の場合もそうだったが、どうも最近のゼメキスは描写に無駄が多い。

【データ】2000年 アメリカ 2時間24分 配給:UIP
監督:ロバート・ゼメキス 製作:スティーブ・スターキー トム・ハンクス ロバート・ゼメキス ジャック・ラプケ 脚本:ウィリアム・ブロイルス・Jr 撮影:ドン・バージェス プロダクション・デザイナー:リック・カーター 音楽:アラン・シルベストリ 衣装:ジョアンナ・ジョンストン 視覚効果スーパーバイザー:ケン・ラルストン
出演:トム・ハンクス ヘレン・ハント ニック・サーシー ジェニファー・ルイス ジョフリー・ブレイク ヴォン・バーグ クリス・ノリス ラリ・ホワイト

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