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コールドマウンテン

「コールドマウンテン」パンフレット

主役のエイダ役にはニコール・キッドマンよりも20代の女優、例えば、この映画にも出てきて痛切な印象を残すナタリー・ポートマンなどの方が良かったかもしれない。出征前のたった一度の慌ただしいキスの後、南北戦争に従軍した男を待ち続ける女を演じるには30代の女優ではちょっと無理がある。しかし、キッドマンはいつものように美しく、お嬢さん育ちの女がたくましく変貌していく様子を説得力のある演技で見せてくれる。お互いの思いを十分に伝えられなかったからこそ、エイダ(キッドマン)とインマン(ジュード・ロウ)は惹かれ合う。平和な故郷でのエイダとの短い思い出は地獄のような戦場にいるインマンにとって輝く宝のようなものだ。だから父親を亡くし、頼る者がいなくなって苦しい生活を送るエイダが“Come back to me”と手紙に書いたことで、インマンは戦線を離脱し、脱走兵として死を覚悟して故郷を目指すことになる。それはちょうど、「風と共に去りぬ」のラストで「そうだ、タラに帰ろう」と言ったスカーレット・オハラと同じ故郷への思いが含まれていたのだろう。

アンソニー・ミンゲラ監督のこの映画、単純なラブストーリーではさらさらない。南北戦争によって美しい故郷コールドマウンテンが疲弊し、人の心が荒廃していく様子をしっかりと描いている。ミンゲラが訴えているのは主義主張よりも大地に根を下ろして生きていくことの真っ当さにほかならない。それを体現するのがレニー・ゼルウィガー演じるルビーだ。農場は荒れ果て、食べるものもなくやせ細ったエイダのところへやってくるルビーは生きるための実際的な知恵だけを学んだ女である。エイダが「悪魔」と怖がるニワトリの首をクキッと折り、「鍋はどこ」と聞くシーンからルビーにはたくましさがあふれている。生きることの手だてを何も持たないエイダに比べて、ルビーは母親のような風格を漂わせ、同時にユーモラスだ。ゼルウィガーのアカデミー助演女優賞も納得である。

映画はインマンの故郷への苦難の道のりとエイダのコールドマウンテンでの暮らしを交互に描くけれど、魅力的なのはコールドマウンテンの描写の方である。旅の途中、女たちに助けられてばかりいるインマンの描写は不要ではないかと思えるほどである。そのコールドマウンテンにも人の弱みにつけ込み、権力を振りかざす唾棄すべき男がいる。そんな卑しい男に対抗するのはエイダとルビーの人としての当たり前の生き方だ。

「バカな男たちが“戦争”って雨を降らせて、“大変だ雨だ!”と騒いでいるのよ!」。同じく脱走兵の父親が義勇軍に殺されたと聞かされたルビーは叫ぶ。あるいは「もし戦っているのなら戦いをやめてください。もし行軍しているのなら、歩くのをやめてください」とエイダはインマンへの手紙に書く。そうした女たちの目から見た戦争批判をこの映画はさらりと描いている。この軸足を少しもぶれさせなかったことで、映画は凡百のラブストーリーを軽く超えていく。

個人的には「イングリッシュ・ペイシェント」も「リプリー」をも超えて、ミンゲラのベストと思う。ジョン・シールの素晴らしい撮影とガブリエル・ヤールの音楽を含めて、充実しまくりの映画である。

【データ】2003年 アメリカ 2時間35分 配給:東宝東和
監督:シドニー・ポラック ウィリアム・ホーバーグ アルバート・バーガー ロン・イェルザ 製作総指揮:イアイン・スミス 共同製作:ティモシー・ブリックネル 撮影:ジョン・シール 美術:ダンテ・フェレッティ 衣装:アン・ロス 音楽:ガブリエル・ヤール
出演:ジュード・ロウ ニコール・キッドマン レニー・ゼルウィガー ドナルド・サザーランド ナタリー・ポートマン フィリップ・シーモア・ホフマン ジョヴァンニ・リビシ レイ・ウィンストン ブレンダ・グリーソン キャシー・ベイカー ジェームズ・ギャモン アイリーン・アトキンス チャーリー・ハナム ジェナ・マローン イーサン・サプリー ジャック・ホワイト ルーカス・ブラック

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