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シネマ1987online

グリーンマイル

「グリーンマイル」

不思議な能力を持つ黒人死刑囚ジョン・コーフィをめぐるスティーブン・キング原作の映画化。一つの小説を6カ月にわたって毎月分冊出版するという形式が変わっていたとはいえ、3年前に読んだ原作をそれほど面白いとは思わなかった(続きを毎回1カ月も待つはいやだったので後半の4冊はまとめて読んだ)。キングの作品としては中の上ぐらいの出来と思う。アカデミー作品賞にノミネートされた映画の方はフランク・ダラボンの堅実な演出とトム・ハンクスやデヴィッド・モース、マイケル・クラーク・ダンカンら出演者たちの好演が光る。「マグノリア」より1分長い3時間8分という上映時間にも長さは感じなかったが、省略できる部分は多いと思う。こういう原作に忠実な映画の場合、原作のどこを生かし、どこを切るかで脚本家の能力が問われる。その意味でダラボンの脚本、決してうまくはない。細部の演出は堅実だが、脚本は凡庸なのである。原作以上の作品にはならなかったのはこのためだろう。

大恐慌の影響が残る1935年の刑務所が舞台。原作の細部はもう忘れているのだが、映画を見ながら疑問を感じたところが2カ所あった。一つは主人公の主任看守ポール・エッジコム(トム・ハンクス)が残忍で卑劣な新入り看守パーシー(ダグ・ハッチソン)に死刑囚ドラクロア(マイケル・ジェター)の刑執行指揮を命じる点。パーシーは知事のコネを鼻にかけ、皆から嫌われている。早く新しい職場に移るよう求められるが、「死刑を執行させてくれたら移る」と条件を出す。ドラクロアに恨みを持つパーシーは刑執行時に仕掛けをし、ドラクロアは電気椅子の上で感電死ではなく、焼き殺されてしまう。原作を確かめてみたら、刑執行指揮を命じたのはポールではなく、所長のハルだった。これはこうでなければ、おかしい。結果的に“ドラクロアの悲惨な死”にポールが手を貸したことになってしまうのである。

もう一つはコーフィ(マイケル・クラーク・ダンカン)の超能力と無実を知ったポールが救命に奔走しない点。「コーフィを助ける手段をいろいろ考えてみたが、まったくなかった」とセリフだけで片づけてしまっては説得力がない。原作では看守4人が集まり、助ける手段をいろいろ考える場面が用意されている。無実のコーフィを助けられない点について、人種差別を含めて意見が交わされるのである。むろん、コーフィは自ら望んで死刑になる。人間を救済することにすっかり疲れてしまったからだ。しかし、それとこれとは話が別である。救命の手段をあっさりあきらめるのなら、神の使いかもしれないコーフィが死を受け入れる過程に説得力を持たせるべきだった。

映画は老人ホームで暮らす現在のポールの回想で描かれる。原作にある看護人との確執をばっさり切ったのは正解で、ここを描いたら映画はもっと長くなっていただろう。だが、これで分かるのはダラボンの脚本家としての能力。エピソードをまるまる切ることはできても、要約したり、他の効果的な表現に移し替える力に欠けるのではないか。映画「トップ・ハット」の使い方を見てもそう思う。中編の「刑務所のリタ・ヘイワース」を映画化した「ショーシャンクの空に」がうまくいき、今回あまりうまくいかなかったのはそういうところに原因があるような気がする。

電気椅子をはじめとした刑務所内の描写は興味深いし、コーフィを演じるマイケル・クラーク・ダンカンは絶妙の演技を見せている。ドラクロアに可愛がられるネズミの演技にも目を見張る。映画で初めてこの物語に接する人は感動するかもしれない。しかし、原作を読んだ人間を満足させることは難しいだろう。ちなみに、神の使いのような超能力を持つ男が出てくる小説としては半村良「岬一郎の抵抗」がある。小説「グリーン・マイル」を読んだときにあまり楽しめなかったのは、このもの凄い傑作と比較していたからで、「スティーブン・キングの負けは明白」と思ったのである。

【データ】1999年 アメリカ 3時間8分 キャッスル・ロック・エンターテインメント作品 配給:ギャガ=ヒューマックス
監督:フランク・ダラボン 原作:スティーブン・キング「グリーン・マイル」(新潮文庫) 製作:デヴィッド・ヴァルデス フランク・ダラボン 脚本:フランク・ダラボン 撮影:デヴィッド・ダッターソル 音楽:トーマス・ニューマン 編集:リチャード・フランシス・ブルース 衣装デザイン:キャリン・ワグナー 美術:テレンス・マーシュ
出演:トム・ハンクス デヴィッド・モース ボニー・ハント マイケル・クラーク・ダンカン ジェームズ・クロムウェル マイケル・ジェター グラハム・グリーン ダグ・ハッチソン サム・ロックウェル バリー・ペッパー ジェフリー・デマン パトリシア・クラークソン ハリー・ディーン・スタントン ゲイリー・シニーズ

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