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ホビット 思いがけない冒険

3部作の前日談の3部作ということになれば、「スター・ウォーズ」サーガに対抗したのかと思ってしまうが、元々はこの「ホビット」、2部作の予定だったのをピーター・ジャクソンの意向で3部作にした経緯がある。物語は「ロード・オブ・ザ・リング」(LOTR)の時代より60年前の設定で、フロドの養父ビルボ・バギンズ(マーティン・フリーマン)の冒険を描く。旅に出るまでの序盤の長い前振りはLOTR第1作と同じで、うーんと思っていたら、中盤からアクションのつるべ打ちとなる。トロル→オーク→ゴブリン→再びオークと続くアクション場面はどれもクライマックスになりうる力を持った内容だ。WETA社が担当したVFXは相変わらず素晴らしく、アカデミー視覚効果賞は決まりではないかと思う。それに加えて、反発していたドワーフの王族トーリン(リチャード・アーミティッジ)とバギンズの友情の芽生えを描いていくあたりにドラマをないがしろにしないジャクソンのバランス感覚がうかがえる。

話はLOTRより随分簡単だ。LOTRには指輪を捨てに行くというメインプロットにフロドとサムの友情をはじめさまざまな枝葉のエピソードがあり、アラゴルン、レゴラス、ギムリという主要キャラクターがいて物語に厚みを加えていたが、今回はバギンズとガンダルフ(イアン・マッケラン)とドワーフ族のみ。ドワーフの国を占拠したドラゴン(スマウグ)から故郷を取り戻すための旅という一直線の設定以外の膨らみが少ない(故郷を追われたという設定はユダヤ人と重なって仕方がなかった)。2時間50分を飽きさせないアクションには感心するのだが、LOTRに比べれば、ストーリー的にやや物足りない面は否定できないだろう。

しかし、「普通の人々の日々の営みが闇を振り払うのだ」というガンダルフの言葉は「小さき者たちが世界を救う」というこのシリーズの一貫したテーマとしっかり重なる。フロドと同じくバギンズは特別に強いわけではなく、優れた能力があるわけでもない。仲間と力を合わせ、少しの勇気を振り絞って困難を乗り越えていく過程に魅力があるのだ。エルフのエルロンド卿(ヒューゴ・ウィービング)とガラドリエル(ケイト・ブランシェット)、魔法使いサルマン(クリストファー・リー)、そしてなんと言ってもゴラム(アンディ・サーキス)と指輪というシリーズでおなじみのキャラクターとの(「王の帰還」から9年ぶりの)再会はファンにはこたえられないだろう。エルフは長寿の種族なので、LOTRの時と全然変わっていなくてもかまわないのだ。序盤にはフロド(イライジャ・ウッド)も登場し、ハワード・ショアの音楽も同じメロディーラインを踏襲している。ファンは同じものを欲しがる。といって、単なる二番煎じにはしていないのがジャクソンの良さだ。

当初はギレルモ・デル・トロが監督するはずだったが、結局、ジャクソンに落ち着いたのはシリーズ全体のタッチのまとまりという点では良かったと思う。この映画、LOTRとシームレスにつながっている。最大の欠点は続きを見るのに1年も待たなければならないことか。

LOTRはシリーズを重ねるごとに評価が高まり、「王の帰還」はアカデミー賞11部門を制した。「ホビット」3部作もそうなっていくことを切に願う。

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